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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ④
玄関ドアにのついたドアポストは古いアパートならではの作りもあって、手を入れて覗けば中の様子がなんとなく伺える。
本当は良くない行為だとわかっていたけど中の様子が気になって仕方がない。もしかしてもう荷物をまとめてアパートを出る準備をしていたらどうしよう。
『……ちょっとだけ、うん。ただちょっと中の様子をみるだけだから!』
親指をポストにかけ上に持ち上げると部屋が見える。見にくいと角度を変えたり中腰でキツい体勢を我慢しながら礼の姿を探した。
このボロアパートにはあいにく礼しか住んでいない事が救いで周りを気にせず怪しまれる事はない。
『いない、、か。荷物もまだそのままっぽいし。どこに行ったんだろ……帰ってないのかな』
隙間からみえる情報をブツブツと口に出していると流れくる汗が目に入り、しみた痛みと気持ち悪さでポストから離れ目を強く擦る。
そしてボヤける視線の先で真横にふわっと人の気配を感じた。
「人の家の前でポスト覗きながらぶつぶつ独り言言ってると不審者がいるって通報しちゃうよ?』
『えっ!?、、あっ……礼さん』
「あいにくこんな家だし金目の物はないけど用事あるなら中入る?」
顔を上げると探していた礼が両手に中身いっぱいのスーパーの袋を持って真横に立ったいた。まるで幽霊でも見たかのような表情の麻比呂に首を傾げながら、皮肉を混ぜた冗談を言った。
『良かったー……まだ、、いた』
そう言うと立ち上がって勢いよく礼に抱きついた麻比呂。衝動でグラッと身体が動くと手にしたスーパーの袋が揺れて礼の右手の指からするりと床に落ちて散らばった。コロコロと転がる果物を目で追い振り返ることも出来ないくらい力強く、麻比呂は礼の背中に手を回して礼の肩に麻比呂の汗で湿った髪がくっついて白いシャツを濡らす。
その時、樹未斗を失った時のあの感覚に似たものを感じた。大切な人を失う辛さや悲しみは経験したくない、その思いが溢れ出してしまった。
『、、突然いなくなったりしないですよね』
「ただスーパーに行っただけだけどー…何か話あるから中で聞くよ。麻比呂くん相当身体熱いから熱中症かもしれない」
『ん??あっっっ!!!』
礼に言われて冷静に自分の行動を振り返って離れた。汗だくの身体に突然抱きつかれたら誰だって迷惑で気持ち悪いだろう、ましてや付き合っている恋人同士でもなければ男同士だ。
"ごめんなさい"と床を見て袋から落ちたものを慌てて拾いあげ袋に戻し礼に差し出すと、視線は麻比呂の手元にあるのに礼は受け取る素振りがない。
『あっ、これー…』
「ごめん。自分こそ麻比呂くんに謝らなきゃいけなかったよね」
『えっ?』
「家に行く約束。連絡しないでドタキャンする形になってしてしまったから。その後もバタバタして何だかんだで話せてないよね、行けずにごめんね」
事故があったあの日、麻比呂の自宅を訪れる約束をドタキャンしてしまった事を改めて謝る。
『あんな事故があったんだから仕方ないです、別に気にしてません。それより俺が気になってるのは昨日の事、、』
「ああやっぱりそれ?聞いたんだ?今日はそれで来たって訳ね」
『まぁ、、そんなところです』
「麻比呂くん昼ご飯まだ?まだなら一緒に食べない?」
ゆっくり首を縦に振った麻比呂はやっと落ち着いた心情のせいか自身の行動が振り返り恥ずかしくなった。古い鍵でドアを開けた礼の後に続いて中に入り"お兄ちゃんの一人暮らしの家に遊びに来た弟"になって三度目の礼の部屋に上がった。
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