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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑤
部屋に上がりすぐにスーパーの袋を置くとそれだけで狭いキッチンの台は調理する場がないほどに溢れている。礼は冷蔵庫から水とタオルを出して、立っている麻比呂の後ろから冷えたタオルを首にかけると冷たい肌の刺激につい反応した。
『わっっ!!』
「これ冷やしたタオル首にかけてて、体温が下がるから。それとエアコン効き悪いからさそれまで扇風機の前にいて。水足らなければ言って」
ライフセーバーの業務対応で一番多い熱中症、手慣れた誘導とタオルを準備万端なところがプロだと麻比呂も感心しながら言われた通り素直に従う。
「お昼はまだ?よければ一緒に食べる?色々買ってきたから2人分はあるよ」
『あっまだです。いいんですか?』
「何で遠慮してるの?さっきまで人の家の中覗いてた人のセリフじゃないね」
『いやッ、、それはー…その』
「冗談だよ!そうめんでいいかな?」
麻比呂はコクリと頷いて扇風機の前に座る。風を浴びながら水を飲んで部屋を見渡した。この部屋に来るといつも殺風景だと感じていたが、物が増え今日は少し賑やかだった。
「あっそうだ。何か話があったんだよね?作業しながらで良いなら聞くけど」
そう言いながら礼は袋から購入した食材を分けて、まずは台の上を片付けてスペースを作る。最低限の調理器具は数える程度しか揃っていない。
そのうちの1つの小さな鍋を出し水を入れコンロに置いて火をかけた。
『あ…謹慎処分ってー…ホントですか?』
「ああうん。そうだね」
『やっぱり……謹慎ってどのくらいですか?』
「10日間って事に決まったかな。ねえさっき言ってたのはこの事?まだ家に居て良かったとかって」
『…もしかして礼さんがこの件で須野から離れて予定より早く帰ってしまうかもって不安で』
麻比呂にとってはこの事は重大な出来事のように受け止めたが、礼の話し方から焦りや動揺は感じない事を不思議に思った。ライフセーバーは職業柄物怖 じしない性格や人柄を想像出来るが、礼と知り合って日は浅い者ものの一緒にいて殴り合いの喧嘩をするようには全く思えない。
「そんな事心配してくれたの?でもそれなら東さんの方に行ってあげた方が良かったんじゃない?自分は別に一発殴られただけで大した傷じゃないからそれだけで居なくならないよ」
『それなら良かったですけど、、』
「東さんがいないとつばさくんに負担がかかるからその分のフォローしないとね」
鍋がグツグツと動いて熱湯に変わると二人分の纏まったそうめんをパラパラと鍋に入れた。料理はほとんどしない礼は茹でる時間が分からず感覚でタイマーをセットする。
『、、だって謹慎中だから礼さんも勤務出来ないですよね?フォローってー…?』
「何か勘違いしてる?謹慎は彼だけだよ」
他の人の前では絶対に見せられないが不覚にも嬉しい気持ちが一瞬表情に出てしまって、肩にかけたタオルで汗を拭くフリして顔を隠した麻比呂。日頃から親しくしている東が謹慎10日間になったのは事実なのに喜ぶなんて不謹慎だと自分で反省する。
『あっいや、、殴り合いの喧嘩したって聞いたのでてっきり二人ともかと』
「そんな訳ない。それは話が誇張 されてるね、それなら麻比呂くんが勘違いするのも無理ない」
『実際は違う、さっき言ってた礼さんが一発殴られただけって事ですか?』
「そう」
どうして殴られる状況になったのか単純にそれが知りたい。東もヤンチャな見た目こそしているが仕事に対しては真面目でキャプテンとしての責任感も強い。東自身が一番大切に思っているこの須野の海で周りに迷惑かけ敷居を下げるような問題起こす事も信じられなかった。
「……何があったんですか?」
『そうだよね、気になるよね。じゃ食べる準備出来たら食べながら話そうか』
しばらくして部屋もエアコンが効いて涼しくなりそれに見合った冷たいそうめんとつゆ、薬味や購入した野菜の天麩羅がテーブルに並ぶ。
『美味しそうです。上手ですねっ』
「あっそれバカにしてるね?世の中にそうめんを失敗する人なんている?」
『そうでしたっ。では遠慮なくいただきます!』
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