49 / 55
𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑥
この部屋のお皿の容器も一人分しかなく、礼のそうめんは使い捨てのアルミの器に入っている。お洒落なランチなんて全く考えていないであろうテーブルの上の様子に、いかにもこだわりのない一人暮らしの男の生活感を感じた。
効いてきたエアコンと冷たいそうめんが体を火照りを静めていく。つるつると啜 る音だけが部屋に響いて、朝から何も食べていない麻比呂はあっという間に平げて箸を置いて礼をじっとみる。
「ん?まだ足らない?」
『あっいやもう大丈夫です。それよりー…昨日何があったか知りたくて』
それを聞いて礼は食べる手を置き、コップの中の残った水を全て飲み干して麻比呂を見た。そしてゆっくりと騒動当日の朝からの出来事を順を追って話し始める。
そう長くはない端的に事の一部始終をありのまま話し終わると麻比呂はやっと理解して胸がスッキリした反面、戸惑いや複雑な心境にもなった。
『そうなんですか……東くんがまさか』
「きっと自分の発言が癇 に障 ったのかな」
『だからって手を出すのは絶対駄目な事だし、礼さんの言ってる事は間違ってないと思います』
「彼は責任感も強い分、仲間を守らないとって言う気持ちも強いからついそうゆう言う行動に出たんじゃないかな」
『だけど礼さんも立場上強く言わないといけない時だってあるだろうしー…責任感じる事はないと思います!』
「慰めてくれてるの?ありがとう、だけど自分は大丈夫。それより東さんの心配してあげて」
どんな理由があれ手を出すのはあってはならないと。だけど高瀬に聞いた話を鵜呑 みにして、この場で礼に真実を聞くまではどちらも加害者で被害者だと思っていた。
それなりに長く親しくしているのは東なのに、騒動を聞いて真っ先に考えたのは礼がどうなるかと言う心配だけが脳を巡った。すぐに礼に会いに行きたい言う衝動のまま身体が動いた結果ここにいる。
『ああ、、そうですよね。でも東くんは人を殴るような人じゃないから信じられないけど』
「つばさくんからするとその日は朝から彼の様子はおかしかったみたいで」
『東くん何か、、あったんですか?』
「その日の前日に大会があってね、彼は出場してたんだけど1回戦で負けたって」
東が大会でいつも好成績を残しているのは麻比呂も知っていて驚いた。1回戦を通過しないのは初めて聞いたくらいだ。
「それに前日の夜つばさくんが彼と電話で話した時も様子が変だって言ってたね。それが引っかかるみたいで」
『試合の結果以外に何か出来事があったってことですかね』
「そればかりは本人に聞いてみないとわからない。今回の謹慎も彼が自ら望んだことだから」
普通であればお互いの話し合い示談で済む話だが、思った以上に事態が大きくなっていた理由は他にあった。それは数時間前の海岸管理本部での話し合いで明らかになった事で、当日現場で見ていた遊泳客がSNSに殴った瞬間の動画を載せ拡散されていたためだった。
動画にはその場にいた全員そのまま顔も隠されもいない、須野海岸だと記された看板もバッチリ映っていた。
『そんなっ、、』
「だから自分と彼が二人が仲直りして、はいこれでなかった事にしましょうねって訳にはいかなくなっちゃってね」
『それでー…東くんが自分から謹慎するって願い出たって事ですか?』
「彼なりにケジメつけたかったのかも。だけど自分は止めなかったよ。こう言っちゃなんだけど新人だから救えなかったなんて、この黄色い制服を着た時からそんな甘えは許されない世界だからね。ライフセーバーでありキャプテンの立場である彼が新人を庇護 する発言は何の意味も持たない、だから自分は賛同出来ない素直にそう言ったまでだよ』
礼の話す口調はいつもと同じ緩いトーンで優しいものだが目つきは鋭く厳しく少し冷たくも見えて、麻比呂は礼の知らない一面を垣間見た気がした。
ともだちにシェアしよう!

