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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑦
そんな礼のストイックな部分もまた樹未斗と重なって見えた。仕事に対して妥協しない、全員に反感を買うのも覚悟で言った言葉は愛情の裏返しだと分かる。
サーフィンを初めて1カ月ほど経った頃、麻比呂は意外にもすんなり波に乗れた。フォームこそ形の良いなものではなかったかもしれないが、名前のついた技と言うものに成功した。
ほら俺は由井樹未斗の弟だ、サーフィンの才能も同じように持ってると調子に乗って天狗になった。
そうなると難易度の高い技やビックウェーブに乗りたいと欲が出る。普通ならそれなりの実力が伴ってこそ挑戦するところを根拠のない自信が先立って樹未斗のいない時に無謀にも難易度がそこそこの技に挑戦した。
結果、大失敗した上にサーフィンで初めて怪我をした。大怪我では無かったが、樹未斗にこっ酷く叱られた言葉は鮮明に記憶に残っている。
《自惚 れでサーフィンするならやる資格はない》
そう樹未斗にピシャリと叱咤された。サーフィン危険度の高いスポーツでもあるが、こんなにも自然と一体化できる体験は他では味わえない魅力がある。
こんな素晴らしいサーフィンで心も体も傷つかない為に麻比呂の思うが故にワザとキツく放った言葉だった。
礼が東の謹慎を受け入れたのも青田に言った言葉もこの時の樹未斗と変わらない心境かもしれない。サーフィンもライフセーバーも心のどこかに備えてなくてはいけない"生と死"。
それを思い知らされたあの日のうっすらとした記憶がフラッシュバックする。思い出すと辛くなるからと思い返さないようにしていたが、それもこれも目の前にいる兄の生まれ変わりの様な礼に出会ってから止まっていた歯車が動き出した。
『礼さんは本当にライフセーバーって仕事に誇りを持ってる感じがする』
「なのかな?だけど自分はきっと麻比呂くんのお兄さんみたいに誰にでも優しくて人望が厚い人気者ではないから。どちらかと言えば嫌われ役だよ」
『そうゆうのも好きですよ」
「え?」
礼の姿に樹未斗を浮かべてぼんやりとしていた麻比呂からふわりとした声で思わぬ言葉が出た。
眉毛を上げて礼は少し驚いた声で聞き返すと、我に返ったように頭にブンブンッと強く振った。樹未斗と重なって見えていた、礼の顔をはっきりと確認して慌てて椅子から立ち上がる。
『あーっと、、そういう変な意味じゃなくて!兄……そう!お兄ちゃんもそういうストイックなところがあって、そこが好きだったな思って。そういう意味でっ』
「ふふっ。分かってるよ。麻比呂くんはお兄さんが大好きだから似てる自分とも親しくしてフォローくれてるって。そんなに似てるなら一度お会いしてみたかったな、お兄さんに」
"好き"と言った意味は分からない。だけど初めて会った日から日常的に頭の中に礼が浮かんでしまう。兄に似ている事で気なる存在になって、会う度に口では言い表せないそれ以上の感情が心に住みついてきたのかもしれない。
「そうだフルーツもあるけど食べる?そうさっき落としたやつ。それと他にもたくさん買ってて」
『じゃあ、、頂きます』
「ちょっと待ってね」
キッチンで慣れない手付きで少し不器用ながらにフルーツの皮を剥いたり洗ったり、丁寧にもてなしてくれる姿を見ていると幸せな気分になった。
それはまるで家に招いて手料理を作る恋人を見ている様な感覚に似ているのかも。
『あの、気になってたんですけどあの花は?』
今日この部屋に入ってからずっと気になっていた花束の存在。礼が部屋に穴を飾るタイプでは無い事は一目瞭然、だとすれば何のための花束なのか率直に聞いてみる。
「あれはー…これから来客があってね。その人に渡す物なんだ」
『来客?あっじゃ俺、お邪魔じゃ、、」
「気にしないで。来るのはあと三時間くらいかな。だからまだ居てもいいよ」
大きな買い物袋で買い込んでいた食材たちはその為だったとこれで理解した。だけどこんな場所まで訪ねてくる来客とは一体誰なのか、気になったが聞き返せなかった。仕事関係?友人?家族?それともー…
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