51 / 55

𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑧

 礼に会って顔を見ると何でも話してしまいたくなる。なぜか知って欲しくて受け止めて欲しくて、幼い頃の話からサーフィンや仕事、そして樹未斗の事も全て打ち明けた。 考えてみれば礼は自身の自ら話をする事はなく謎は多い。かと言って謹厳(きんげん)と言うほど気難しく近寄りがたいわけでもない。  それも長く一緒にいれば見えない部分も見えて素性も分かり始めるけれど、礼がこの須野の町にいるタイムリミットは長くない。  『礼さん、関係ない話だけど質問していいですかか?』  「ん、質問?何かな?」  『礼さんの小さな子供の頃とか家族の話聞きたいです』  カタンっと果物ナイフを置く音が部屋に響いた。少しいびつな(いびつ)な形にカットされたマンゴーがまな板の植えて転がった。  「家族?いいけど、何も面白くないよ」  『それでもいいんです。ただ礼さんのライフセーバー以外の事以外を知らないから聞いてみたくて』  「まあ普通の家庭で育ったよく居る田舎の少年だったよ」  『じゃぁ例えばご両親はどんな人?』  「どんな人って普通過ぎて例えようもないけど、強いて言えば二人とも物静かであまり干渉しない人かな」  『いいな。うちとは真逆ですね!うちは知っての通りあの調子ですから』  礼が笑いながら切ったマンゴーを乗せたお皿を持ってテーブルに置いた。麻比呂はお皿を覗き込んで少し悩んで手に取ってパクりと一口で食べたガタガタした形だか口の中に入ればすぐにとろけて水分と甘味でいっぱいになった。  「自分は兄弟もいないし本当は普通に会社員でもして親の側にいる方がいいんだろうけどね。何せ同じ場所にじっとしてられない性分でね」  『礼さんと俺は全てが正反対なのかも。俺はこの街から出て生活した事は無いから』  「それでいいんだよ。」  『……ここも夏が終われば、、礼さんはいなくなるんですよね』  麻比呂は少し寂しげな顔と儚げな声でボソっと言った。小さく息を吐いた礼はお皿に手を伸ばしてフォークで刺したマンゴーを二人の目線の間に出した。  「自分もこのフルーツみたいなもんだから」  『、、どういう意味ですか?』  「季節ものってこと。これも旬の季節が終われば売り場では見なくなって食べる人もいなくなるでしょ。ライフセーバーも同じで夏が終われば海岸から姿を消してまた次の夏が来るまで静かに暮らす」  そんな生活が自分には合ってると言いながら礼はマンゴーを口の中に入れた。    一期一会なんて言えばは聞こえはいい。ひとときの儚い出会と別れが美しいなんて理想論で誰にでも当てはまるわけではない。 去るもの追うべからずの思考でカラッとした性格の麻比呂が初めて抱いた感情。だけどそんなの簡単に口に出せるわけもない。  "居なくならないでずっと近くにいて欲しい" そう本音を言って引き留められたらどんなに楽だろうか。    《お店ほったらかしてどこに居るんだ!》  ピコンッと反応した麻比呂のスマホの画面に映し出された文面は、父親からの激怒している顔が浮かび想像できるようなメッセージだった。  『あっ、、ヤバ。しまった』  「何どうしたの?」  『店に高瀬さん置いてきたんです。すぐ帰らないと』    冷静に行った麻比呂だが本当はもっとこの場に居たいし、まだまだ話したいことが山の様にある。だけど1秒でも早く店に戻らないと父親の説教が余計に長くなる。"ごちそうさまでした"と手を合わせて立ち上がった。  「もしかして仕事中抜け出して来てたの?それは申し訳ないことしたね」  『いや俺が勝手に来ただけなんで。あっ、けどこれだけは言わせてください。東くんきっと何か事情があってあんな行動しただけだと思うんでー…許してあげて下さい」  「ふふっ。分かってるよ。それより今は他人より自分の心配したほうがいいんじゃない?ほらっ、早く店戻って」  バタバタと靴を履いてドアノブに手をかけて振り向くと手を挙げて"急いで"と少し状況を楽しんでいる礼。名残惜しい気持ちのままドアを開けアパートを出た。  お昼過ぎあの坂道を小走りで下っていく麻比呂。礼のアパートとお店が近い事が救いだが、今月のバイト代カットは免れ無いだろうなと足取りは重く礼のおかげで体温もやっと引いた汗もまたすぐぶり返した。  「あのっ、すいません!」  『え、はい!?』  「この辺りにシーサンライズって名前のアパートあるのご存知ですか?住所はこの辺なはずなんですが」  そう言って前から来た通行人に道を尋ねられた。来た女性は白いふんわりとしたロングスカートに水色のノースリーブの腕から細く白い肌が見えて日差しを遮る様に手をおでこに当てて麻比呂を見ていた。  

ともだちにシェアしよう!