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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑪

 「ホントだ。メールで書いていた通りのアパートだね。てっきりヴィンテージ調っぽいちょっとお洒落なアパートに考えてたんだけど、、これは何と言うか〜」  「いいよ、はっきり言ってくれて。そこが佑香ちゃんの良いところだし」  「ボロアパート!」  誰がどう見たってこの建物のそれ以外の表現方法は無い。礼は笑いながら中に入り、続いて佑香が玄関と呼べるか微妙なくらい狭い靴置きにヒール3センチほどのミュールを綺麗に脱いで中に入る。  「取り壊し直前のアパートを無償で借りてるんだ。なんかそういうのも面白いかなって、今年はこんな感じ」  「へぇ、毎年楽しそうでいいな。私なんて社畜で家とマンションの往復の毎日、だから毎年礼さんのところに来るの楽しみでもあるの」  佑香はぐるっと部屋全体を見回し少し奥へ入って風呂場とトイレを覗いた。特に見所もなくものの30秒でこの部屋のルームツアーは終わった。  「もしかしてご飯中だった?」  「あーうん、けどちょうど食べ終わったとこ」  「ちゃんと自炊してるんだ?」  佑香がそう言ったのはキッチンのシンクに溢れるお皿やお鍋をチラッと見た後。礼が料理と言うものを全くしない事を知っている佑香が気になったのは、それ以外にもお皿の量が2人分である事だった。  「いや、たまたま今日はね」  「もしかして誰か来てた?もしや〜お料理を作ってくれる相手がいるとか?」  クルンっと回るように振り返り少し意地悪く言った。その言い方はまるで彼女が家に来てお料理を振る舞って一緒に食べてた?と言いたいかのようだ。  「何言ってんのそんな相手いないよ。知っての通り自分は風来坊だから誰かと親しくなる頃にはいなくなる」  「そんな事言っても礼さんがモテないわけ無い。声かけてくる女の子はいくらでもいるでしょ」  「それはどうかな」  佑香は床に顔を向けると綺麗に束ねられた百合の花束が目に入った。両手で丁寧に持ち上げてそっと鼻に近づける。濃厚で甘い香りがまた1年経ったと知らせするように鼻腔に放つ。    「お花用意してくれてありがとう」  「うん。この近くに花屋がなくてね、探すの大変だったけど毎年違う海岸へ来て花屋探しするのも意外にも楽しかったりするよ」  「あれからもう4年ー…経つんだね」  今2人の頭の中には同じ光景が見えている。そしてその関係の中に1人の人物が浮かんでいる。佑香は百合の花束をテーブルに置いて窓の方に駆け寄り窓枠に手をついて外に身を乗り出した。  「わあ、すごく海が綺麗に見えるね!」  「ここに来るまでに長い坂を上ったでしょ?そのおかげでこの眺望が見れるんだよ」  「アパートは古いし坂は大変だったけど、この海が眺められるならここも悪くないね」  「でしょ」  礼は佑香越しに須野の海を後ろから見つめる。海は自身の好きな場所でもあり職場でもあり愛している相手にまた会える場所だ。 少し見てからシンクの中の洗い物を初めた礼。4年間の放浪生活も初めは家事を含め戸惑うことも多かった。    それまではいつも側で世話をしてくれた相手がいた。家に帰るといつも礼に美味しい料理が待っていて、食欲をそそるその匂いに我慢できず汗や潮香りをシャワーで落とす前にダイニングテーブルに座る。 "先にちゃんと手を洗って"と何度言われたことか。思い返せばそんなことばかりが浮かぶ。  「礼さん、明日は晴れそう?」  「うん。大丈夫、雨の心配はないよ」  「さすが!お姉ちゃんは晴れ女だったからね。命日に雨なんて泣いてるみたいで嫌だもん」  「……彩香はいつも笑ってたからね」  「お姉ちゃんが亡くなって4年。今年は須野(ここ)にちゃんと来てくれてるかな?」  「必ずいるよ。明日会いに行こう」

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