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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑫
店から夜遅く帰宅して色んな感情に振り回された1日にさすがに疲弊していた麻比呂はベッドに飛び込んだ。だけど何故だか寝付けず浅い眠りで翌朝4時に目覚め、横たわってスマホを見ていた。画面のブルーライトの光が当たった顔は何かを知りたがっている顔している。
"真壁礼"そしてひとマス空けて"ライフセーバー"と打ち込んだ。このSNS時代の今、ひょっとしたらアカウントがあってもっと知りたい部分か知れるかもと期待した。あの礼のアパートを家を訪ねた女性の存在がやっぱり気になっている。
『……ないか。そういうタイプじゃないもんな』
検索して同性同名の人物は何人かヒットするわが明らかに別人の写真だ。やはり礼はSNSで自分のプライベート流したいなんて考える性格じゃないだろうと分かっていた。
画面をスクロールしていると気になる文字を見つけた。"大学3年 真壁礼 大会新記録"と書いた見出しで全国の大学水泳競技大会の記事の一つだった。
今から8年前の日付になっていて時間が経過している。もちろん髪型や肌の色の違いは多少あるけれど文字の横に一緒に掲載された写真は間違いなく、今この街にいる真壁礼 だった。
その記事を始めいくつか水泳の競技大会で功績を残した証がネット上に残っていて顔を画面に近づけて小さい文字も夢中になって読んでいた。
『オリンピック代表候補選考会ー…棄権?』
その記事が最後で7年前の日付になっていてそれ以降、真壁礼でヒットするものは出てこなかった。オリンピック選考に名乗りを上げるほど水泳で知られていて登り詰めていたのにどうしてか。
何があったのか疑問が残るが真相を知りたければ近くにいる本人に直接聞けばいい。だけどふと思い返して一つある疑問が浮かんだ。
それは初めて礼がRock The Oceanに訪れた日の事。
テーブルで交わしていた会話でふと父親が礼に何かスポーツをやっているか?聞いた。その時、礼が"特に何もしていない"と答えた記憶がフラッシュバックした。
自らの自慢話をするタイプではないとは言えライフセーバーになった今、水泳選手だった事に意外性はないし隠す理由はないだろう。
アスリートが怪我で競技を辞める事はよくある。しかしそれもこの職業をしている上では考えにくい。だとするとオリンピック出場と言う大きな成功を目の前に、棄権せざる何か出来事があったに違いない。
そんな事を考えているとピコンッとスマホ画面の上部に、つばさからのメッセージが表示されて目を向けた。
"麻比呂わるい。今日一人行けるか?疲れて体が動かない、勤務開始まで寝かせて"
日課の朝サーフィンのドタキャンメール。いつもの麻比呂ならすぐに折り返し電話をして文句の一つでも言うところだが今日は違う。
副キャプテンとして東の分まで業務をこなさないといけない状況だと言う事は知ってる。それにきっと一昨日の出来事で、ライフセーバー本部の皆んなの雰囲気も不穏なムードになって精神的にも疲れているのだろうと。
「つばさくん、ああ見えて意外と気遣い屋で神経質なところあるからな」
"大丈夫。東くんの復帰まで一人でやれるから。また美味しいもの差し入れ持ってくよ"
"サンキュな"
そんな短いやりとり簡単にし会話はすぐに終わった。考え事で頭がいっぱいになっている時は無性に波に乗りたくなる。好きなことをやっていると少し冷静でいられるし頭を整理出来る。
麻比呂はウェットスーツに着替えサーフボードを持って家を出た。日の出から1時間ほど経った午前6時の須野海岸は変わらない盛夏の朝を迎えて、透明度の高い海水がキラキラと緩やかに波打っていた。
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