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𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑬
入水する前に軽く波の状態を読みながら全身のストレッチをする。波を読むための知識は意外にもこの6年間の間も保ったままだった。
「あっ麻比呂、やってたの?」
背中からのその声はすぐに三葉と分かり、ストレッチで身体を捻ったまま手を上げて"おはよう"と答えた。見た事ないデザインのウエットスーツを着てサーフボードを抱え海岸へ来た三葉。
『三葉ちゃんが早朝に来るの珍しくない?』
「あ、うん。今日はうちのお店の新商品のこのスーツ試そうと思ってー…で、麻比呂はいつもこの時間にやってるんだっけ?」
『そう。つばさくんと来てるけど今日は一人。ってか、しばらく一人になりそう』
「、、そうなんだ」
最後に両手を挙げてぐーんと背伸びをするように身体を伸ばしてストレッチを終えた麻比呂。
"どうして一人に?"と聞き返さない三葉はもちろん数日前の一件も東が謹慎中になのも知っていて、つばさがサーフィンどころの状況ではないのも理解しているのだろう。
「何だか麻比呂とサーフィンするのすごく懐かしく感じる」
『そりゃもう6年経ってるからね』
「あの頃は麻比呂はまだ身体も小さかったからボードがすごく大きく見えてさ、ちょっと可笑しかったのを覚えてる」
『そうそう。だから悔しくてその時牛乳たくさん飲んだら、その衝動で今は牛乳嫌いに』
「あははっ。そうだったの?それは悪い事したわねっ」
つい思い出話に花が咲き止まらなくなって一度脇に抱えようとしたサーフボードを再び下ろした麻比呂。
『それに今だから言えるけど、初めお兄ちゃんが恋人だって三葉ちゃん連れて来た時はライバル出現だって思ったよ』
「えっちょっと!何よそれ?」
『お兄ちゃんが取られたーって』
ある日大好きな兄がサーフィン以外に大切がモノが出来たと聞いた。それが付き合っている恋人の三葉だと紹介されて、まだ幼い麻比呂には少し寂しく感じて自分との時間を他人に奪われたような気持ちになった。
それからはしばらくしてサーフィンを始めた麻比呂と三人でサーフィンをするようになり常に3つのサーフボードが並んでいた。
とてもお似合いの二人だった。サーフィンを愛すると同じようにお互いを大事に思い合っているのがすごく伝わったから。それに恋人が出来ても樹未斗は変わらず麻比呂を気にかけていた。
「あれ、もしかして私のこと嫌いだった?」
『いや逆だよ。三葉ちゃんは今まで通りお兄ちゃんとの時間も作ってくれたし、三人で波乗るのすごく大好きな時間だった。やっぱり三葉ちゃんはお兄ちゃんが選んだだけの人だなって』
「何よ〜言ってくれるわね。何もご褒美出ないわよ」
照れながらも顔を緩める三葉と麻比呂は小さく笑いあった。あの時と変わらず三葉は凛としたカッコいい魅力的な女性だ。だけど突然の別れからこの6年間新たな恋はしていない。
『そうだ。知ってると思うけど数日前の騒動で東くん謹慎してるって』
「うん、聞いてる」
『つばさくんが連絡しても返信がなくて心配してて。ほら東くんは責任感の強い人だから、いくら謹慎中でもつばさくんの仕事の連絡を無視するとか普通はないと思うんだよね』
「、、家には行った?」
『つばさくんが行ったみたいだけど留守だったし、試合前日から何か元気がなくて様子が変だったって。どうしたんだろう、、何か知ってる?』
麻比呂の問いかけに動きを止めて黙った三葉。東の心情を知っているかと言われれば答えはノーだが、自分の行動に全く思い当たる節がないとも言えない。
『あのね私、光基に告白されたの』
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