57 / 57
𝐷𝐴𝑌 𝟚𝟡 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟛𝟛 ⑭
唐突に放った言葉に麻比呂は目を開いて三葉を見る。沖の方へ遠く視線を向けている三葉の横顔はこの6年間を思い出している様にも見えた。
『東くんに、、?』
「そう、大会の前日にここで。驚きでしょ?私も今も何が何だかって感じ」
『あー…それで何て返事したの?』
「まだ何も。そのままその場から逃げちゃってそれからはまだ会ってないの」
つばさが言っていた様子が変だと言うのは何となくこの事が原因だと思った。だけどそんな事言ったら三葉が責任を感じてしまうと麻比呂は明るい口調で返す。
『まあ仕方ないよ!って、恋愛経験ほぼゼロの俺に言われてもって感じだよね。だけど東くん自分で処分を申し出たみたいだしー…今回の謹慎とは関係ないよ!』
「あれ?もしかして励ましてくれてる?」
『あっ、、いや』
「ありがとう。まさか麻比呂にこんなふうに励まされる日が来るとはね。大人になったね〜」
三葉は麻比呂の髪を犬を撫でるようにクシャクシャとするよ"やめてよー"と言いながら避ける。姉弟のような関係は何年経っても変わらないままだ。そしていざボードを持って同時に沖へ走った。
二人を迎える波は綺麗なブレイクをしていて歓迎ムードだ。やっぱりサーフィンが好きだ。麻比呂はやっと全てをかけてやりたい事と出会えた。環境も仲間も最高な須野 でずっと海と共に生きていたい。
22歳 この夏は何かが違った――
「あっ、そろそろ仕事だから行かなきゃ」
『うん俺も』
「そうだ明日あたり夜にお店行っていい?」
『もちろん。最近来てなかったもんね。お父さんに伝えとく』
そんな会話をしながら浜に戻る。濡れた髪を軽くタオルドライして髪ゴムで一つに結ぶ三葉をじっと見ている麻比呂に気付いた。
「ん?何、どうしたの?」
『あのさ、、お兄ちゃんは俺にとっても三葉ちゃんにも特別な存在で一生忘れることはできない。そうだよね?」
「そんなの当たり前でしょ。突然何言ってー…」
『だけどこの先の未来に生きていくのにもしそれが足枷 になってるなら、少しの間お兄ちゃんを忘れてもいいと思うんだ』
「ねえ麻比呂、何が言いたいの?」
『余計なお世話かもしれないけど、、もし東くんを選ぶなら僕はそれでも歓迎だから!お兄ちゃんもそう望んでるはず』
三葉は麻比呂の言葉に黙って下を向いた。本当は分かっていた、一番樹未斗の死から立ち直れていなくて引きずっているのは自分だと。6年経った今も新しい恋愛を恐れている事を。
サーフィンをする度に一緒にいたあの頃を思い出して悲しくもなるけれど、ボードに立っている時は目を向ければ樹未斗がすぐ隣にいるような錯覚になってまだ恋人同士でいられる。その感覚を失いたくなくてこの6年間は海へ行って波に乗っていたんだと。
「それはー…自分でもよく分からないの。樹未斗以外の人を好きになれないのか、、それとも好きにならないようにしていたのか」
『俺もやっと先に進めるようになったのは、三葉ちゃんやつばさくんのお陰だから。生意気な言い方かもだけど、三葉ちゃんにも先に進んで欲しい」
三葉は顔を上げて少し潤んだ瞳で麻比呂を見た。それまで兄弟あまり似ていないの思っていたのに今日ばかりは麻比呂の顔が樹未斗そっくり見えて姿が重なり樹未斗に言われている感覚になった。そう思うと気持ちがスッキリして涙も消え去った。
「ほーんと生意気なんだから!たけど今回ばかりは麻比呂の言う通りね。私しっかり現実と向き合わなきゃ」
いつもの強気な三葉に戻った瞬間は麻比呂にとってやはりカッコいい姉の存在でそれは例え他の誰かと付き合っても関係は変わらない。
二人はボードを抱えて家に向かって歩き出した。
すると前からこちらに向かって歩いてきた見覚えのある二人組の姿に目を向けて、近づくと誰ともなく声を出して四者四様の反応を見せた。
『あっ、礼さん』
「麻比呂くん」
「あれ?昨日の?」
「あ、あの時の?」
ともだちにシェアしよう!

