4 / 8

その3※

 狂乱はすぐに始まった。 「─⁠─⁠んだよ、済まし顔でちゃんと感じてたんじゃねえか。お? 嫁の前だから良いカッコしようって頑張ってたわけ?」 「ひぐっ」 「おーおー良い音。んで、ちゃんとチンポもおっ勃ててますと」  尻を叩かれたのだろうベチンと張りのある音が響き、瀬津が呻き、ゴリラは益々喜色を漏らす。 「なんだ、やっぱりお前もこっち側じゃねえか。何で懇親会の時に俺のこと振ったわけ?」 「それは、っ久人、が……」 「嫁に悪いってか? ……ああ、まあそうだわな。お前あん時新婚っつってたか。流石にそれでケツの味知るのは不味いよな─⁠─⁠」  それ以上はもう聞いていられなかった。  崩れ落ちそうになるのを何とか踏ん張り、脱衣室を出た。寝室に入ろうとして止める。「俺専用のオナホに作り替える」為に彼らがベッドを使うかもしれないから。二人がまず来ないところが良かった。  それで、瀬津の書斎に籠もっていた。   「……馬鹿みてえ」  こんな時まで彼に縋り付いている自分が情けない。彼の匂い、チョコレートに似たほろ苦い甘さに釣られて来てしまった自分が恨めしく、といって踵を返せない根性の無さに自嘲する。  前々から、彼の香りが満ちたこの部屋で蹲るのが好きだった。包みこまれている気分になってきて。  本当の瀬津は今頃ゴリラの野郎に犯されてるのに。それも嬉々として! 「ちくしょう……」  考えずにはおけない、瀬津の蕩けた顔。ゴリラのふざけた物言い。「懇親会の時に俺を振った」と奴は言っていた。それも俺達が新婚のタイミングで。ってことは、あの男は入所したての瀬津に告白してたってわけだ。弱冠二十四歳、周囲の期待に応えんと日夜努力していた、薬指の結婚指輪を嬉しそうに撫でていたあの頃の瀬津に。 『なあ尾崎、お前いい身体してんなあ。一回だけでいいから抱かせてくれよ』    聞いてもいない言葉が生成されて腸が煮えくり返り、 『……先輩、自分は結婚しています。妻がいるので、不貞は犯せません』  感涙が僅かに滲み、 『とか言って、満更でもねえんだろっ! おらっ!』 『んぉ゛っ♡おっ、やめ、ぉっ♡おっお゛っお゛っ♡』  先程の浴室での光景と混じりだす。瀬津は二十八歳の男盛りへ成長し、しかしそんな身体をゴリラの良いようにされていた。  立ちバックの体勢でゴリラが強く腰を打ち付ける。瀬津のくびれを掴み、力強いピストンで細かく前立腺をえぐる。すると瀬津はなすがままだ、いやいやと首を横に振りつつも、上半身を弓なりに反らしながら喘いでしまう。 『おらっもっと鳴け! Ωみてえに善がりまくれや!』 『おぉ゛ッ♡やッ、あるふぁッ♡俺α、なのにっ♡』 『チンポで喜んどいて何がαだっ、てめえは一生俺のオナホなんだよっ! オラッ、ザーメン飲め! 中出しされてイケッ!』 『お゛ほっ、ぉ゛おおッ♡』  そうしてαでありながら同じαの精に歓喜を漏らすのだった。彫刻のように磨き上げられた肉体を汗みずくにし、ぶるりと震わせ─⁠─⁠がくんと崩れ落ちる。  そんな瀬津に構わず腰をにゅこにゅこ動かして残滓まで腸壁に擦り付けていたゴリラは、 『あぁ゛〜っ……すっげえ気持ちいいわ、お前の穴。しかも何だ、まだ食い足りないって蠢いてるぜ』 『ほ……♡ぉ……♡』 『こりゃあ抜かずの二発も……いや、待てよ』  何かを思いついたようで、真っ赤にふくれながらも懸命に己の砲身を咥え込む肉の縁に指を引っ掛け、左右に思い切り引っ張り、腰を強く引き始めた。 『っぎ♡ううぅ゛〜〜♡』 『おいおい、ケツついて来てんぞ? そんなに抜かれたくないってか』    そう笑いながらもゴリラは容赦がない。行かないでと言わんばかりの尻をペチンと叩き、でっぷりと発達したカリ首でごりゅごりゅと腸壁を引っ掻きながら後退していき、最後も力任せに引き抜いて、引き抜かれた衝撃で甘イキした瀬津をひっくり返した。  とろとろの瞳と浅い呼吸を繰り返す唇、上下する胸。  そこに普段の理知的な、怜悧な姿はない。  ただの犯されたαだ。  ゴリラは躊躇なく腹筋に跨ると、ペニスを瀬津の胸の谷間に乗せた。既に復活しつつある。 『おら、パイズリでイカせてみろ。そしたらご褒美やるよ』 『ごほ、び』 『おう。そうだな……嫁さんと涙の別れってのをさせてやるよ』 『久人、と……』 『そ。俺は一生この人のオナホケースとして生きています、ごめんなさいって言わせてやる』  しかも背面駅弁でファックされながら。  激しい快楽の余韻に震える眼差しで捉えた笑みに、下卑た提案に、瀬津は少し戸惑っているようだが……双眸は期待の光で爛々と輝き、そろそろと両手を己の胸に添えだす。やる気だ。  パイズリをする気だ。雌堕ちした無様を晒しながらこれまで愛を囁いてきた妻に別れを告げる気なのだ。  スペンス乳腺に手を添え、むっちりした胸を寄せてゴリラの赤黒いペニスを歓待しにかかった。ゴリラも腰を前後させる。日焼けしていない胸に色素沈着した肉棒が擦り付けられ、先程の精液の残りと先走りとが塗り込められていく様は大変いかがわしく、卑猥で。  が、待ってほしい。   『んっ♡んっ♡先輩、どう、ですか……♡』  男の胸などどんなに立派であれたかが知れているし、谷間なんぞあっても精々溝レベルだ。だからまあ、瀬津がどんなに可愛く喘ぎながら頑張ったところでゴリラの巨根を気持ち良くさせられる筈はない。  ならばこの行為に意味は無いのかと言えば、それはそうでもなくて。   『おっと、わり』 『ひっ♡』  思い切り腰を引いたゴリラが、谷間ではなく胸の下端、つまり乳輪に亀頭を押し付け始める。口では偶然を装っているがわざとだろう、そのまま乳首に裏側の窪みを充てがうのだから。 『っお、いいねえこれ。お前の飛び出てるからちょうど乳首が裏筋に当たるんだよなあ』 『あぅ、ぅう……♡』 『んで、ちょっと押し付けてやったら……おお、高級クッションって感じ。ぽってり膨らんでるけど中身はふわふわって、羽毛超えてるわ』  乳首をていの良い玩具に、乳輪をクッション代わりにされても瀬津の顔はだらしなく緩み、何ならゴリラの自慰を手助けするかのように胸を上下させる。放置されたもう片方が寂しいのか手で弄くりだす。  つるりとした亀頭で乳頭をにゅぷにゅぷと押し潰される光景を陶酔しきった顔で眺め、 『あ゛ーっ、たまんねっ。出すわ』 『ん♡』  そのうちゴリラが射精し胸に白濁が散ると、それを掬って塗り込めていった。どうしようもない淫売だった。ゴリラもそれを笑いながら、けれど腰を前に突き出して、 『っん、ぅ♡』  瀬津の唇に鈴口を押し付け、白濁を塗り込んでいく。 『ザーメンリップってな。おい、舐め取んじゃねえぞ? それで嫁さんと最後のキスすんだからよ』 『んぅ……♡』  ゴリラのサディズムに溢れた言葉に、瀬津はうっそりと笑い。  背面駅弁を嬉々として受け入れる。  すっかり赤く腫れて精液が滴り落ちる穴に、再び怒張を埋めていく。 『っお、ぉお゛……っ♡』 『と。よしよし、ちゃあんと穴締めとけよ? 抜けねえように……なッ!』 『〜〜〜ッ♡』  自身よりひと回りも逞しい身体に荷物のように抱え込まれる被征服感、結腸をずっぽり突かれハメられて生じる圧倒的な快楽。白目を剥いてガクンと身体を震わせると、瀬津のペニスはトロリと白濁を漏らした。お漏らしのようにみっともない射精で、竿の緊張を弛めるにはこれっぽっちも足りない。 『じゃ、嫁さんのとこ行くか』  ゴリラが歩くたびに腹を打つ。見事な凹凸の腹斜筋をペチペチ叩きながら白濁をまき散らすのが滑稽だ。ゴリラはその様を笑いつつ進み、脱衣室の棚に腕を伸ばした。  俺がゴリラに着せるべく用意したTシャツを掴み取る。 『おいおい、家ん中マーキングでもするつもりか? これで拭いとけ』 『それ、ひさと、の、ぉ゛♡』  俺のシャツを雑巾みたいにして、瀬津の前を荒く拭っていく。 『こっちは慰謝料たっぷり払うんだから、これくらい餞別に貰ったって良いじゃねえか』 『あぁ……ひさと、ごめんなさ……』 『っと!』 『お゛ぐっ♡おっ、おっ♡ひさっ、ひさとっ♡ごめんっ♡だめなおっとで、っ♡ごめんなさいぃっ♡』  謝りながらもシャツにどぷどぷと精液を染み込ませていく瀬津。罪悪感こそ抱きつつも、それにさえ被虐的な快楽を覚えているように見えた。満足気に見届けたゴリラは彼のペニスが勢いを失くしたのを見計らってTシャツを放り投げ、意気揚々と脱衣室を出る。  一歩進むごとに上がる瀬津の嬌声をBGM代わりに進んでいく。  廊下を歩く。  寝室を通り過ぎる。  玄関にほど近い扉の前で、立ち止まる。  そしてドアノブに手を掛け─⁠─⁠。 「久人」  

ともだちにシェアしよう!