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久しぶりの再会

あれから僕は支社長に予定通り日本に帰国する旨を伝えた。 「申し訳ありません。支社長にお気遣いいただきながら……」 「いや、実は、本社にさりげなくこのまま宇佐美くんをL.A支社に居てもらうのはどうかと話をしてみたんだが、本社から正式に断られてね……やはり、宇佐美くんほどの優秀な人材は本社が手放さないな。だから、宇佐美くんに断ってもらえて助かったよ」 支社長は笑ってそう言っていたけれど、きっと僕が気にしないようにそう言ってくれていることはわかった。 いい上司に恵まれたと感謝しかない。 そんな支社長へのお礼ということではないけれど、帰国までこれまで以上に仕事を頑張って恩返ししようと心に誓い、誉さんからの食事と電話を楽しみに残されたL.A支社での日々を精一杯過ごしていた。 「宇佐美くん、今日はやけに嬉しそうだな」 「えっ? そ、そうですか? いつもと一緒だと思いますけど……」 「いやいや、みんなが朝から噂してるよ。ちょくちょくスマホを見ては嬉しそうな顔をしてるって。この後、何か楽しいことでもあるのかい?」 実は今日、夕方に誉さんが到着する。 本当は空港まで迎えに行きたかったけれど、そのまま一旦仕事に向かうらしく、後で合流することになっている。 連絡が来てるかもしれないと何度かスマホに目をやったのは覚えているけど、まさかみんなに気づかれるくらい見てしまっているとは思ってもなかった。 「あ、いえ。その……日本から友人というか、知り合いが訪ねてきてくれることになっていて……」 「ああ。なるほど、だからか。こんなに遠方まで来てくれるなんて、よほど親しい仲なんだな」 「いえ、あの……仕事で来られるついでなんですよ。親しいなんて、そんな……っ」 「ははっ。そういうことにしておこう。明日から二日間有給取ってるんだし、今日はやること終わったらすぐに帰っても構わないよ」 「はい。ありがとうございます」 お礼を言って、その後はひたすら仕事に打ち込んだ。 時折スマホを見るのだけはやめられなかったけれど、それは仕方ない。 「お疲れさまでーす」 ようやく業務が終わり、バタバタと帰り支度をしてロビーに向かおうとすると、ロビーに置かれたソファーの辺りに人だかりができている。 なんの騒ぎだろう?  多少気になりつつも、誉さんとの待ち合わせが気になってスマホに目をやると、 「宇佐美くん!」 と僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「えっ?」 声のする方に振り返ると、人だかりがさっと開いてその奥に誉さんの姿が見えた。 「あっ!」 なんでここに? あまりの驚きに茫然とその場に立ち尽くしていると、誉さんの方から駆け寄ってきてくれる。 「早く終わったから迎えに来たんだ。ソファーで待っていたら不審がられたのか囲まれてね、大変だったよ。宇佐美くんが来てくれて助かった」 「あっ、そうだったんですね。疲れているのにお待たせしちゃってすみません」 「ふふっ、大丈夫。久しぶりに宇佐美くんの元気そうな顔を見られたから嬉しくて元気になったよ」 誉さんの優しさにホッとする。 「僕もです。久しぶりに誉さんに会えるのが嬉しくて、今日ずっとスマホを見つめちゃってました」 「――っ、そうか。嬉しいよ。じゃあ、早速宇佐美くんの家に行こうか」 にっこりと微笑まれながら、肩を抱かれる。 一瞬、えっ? と思ったけど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。 「はい。じゃあ、行きましょうか」 誉さんと寄り添いながら歩いていると、さっきまで誉さんの周りにできていた人だかりは近づいてこようとしない。 ――宇佐美くんが来てくれて助かった。 そうか、わかった。 あの人たちがこっちに来れないようにわざと僕に近づいているんだ。 仕事相手だと思ったら邪魔できないもんね。 やっぱり誉さんくらいかっこよかったら、こうやってロビーにいるだけでも人が集まっちゃって大変なんだな。 僕が虫除けになって、誉さんの役に立ててよかった。 玄関に行くと、キースがすでに車を回してくれていた。 『Mr.ウサミ。今日もお疲れさまです』 『ありがとうございます。キース、彼は Mr.ウエダ。今日から……えっと、何日でしたっけ?』 『ああ。五日間だよ。彼の家に泊まらせてもらうことになっている弁護士の上田です。どうぞよろしく』 『はい。Mr.ウエダ。どうぞよろしくお願いします』 よかった。 誉さんもキースも仲良くなれそう。 さっと車に乗り込むと、あっという間に自宅に到着した。 車を降り、ジャックに挨拶をして家に案内する。 「誉さん、ここが僕の部屋です」 「生活環境が整っているし、住みやすそうだ。管理人もいるし、安心できるな」 「はい。そうなんですよ。みんな強い人ばかりなんで安心してるんですけど……」 「けど?」 「僕自身も強くなった方がいいのかなと思って、武術を習いに行こうかなとか、せめてジムに行って鍛えようかなとか思ったりしたんですけど、仕事が忙しくてなかなか行けなくて……」 「ああ。そういうことか、だが宇佐美くんは無理しない方がいいんじゃないか? アメリカのジムはこっちの人に合わせたプログラムが多いから、アジア人には向いていないんだよ」 「あっ、そうなんですね。じゃあ、日本に帰ってからですね。鍛えるのは」 「そ、そうだな。よければ私が行っているパーソナルトレーナのいるジムを紹介するよ」 「わぁっ! 助かります!! 最近、本当に運動不足で筋肉落ちてきてるなって痛感するんですよ」 そう言いながら、鍵を開け中に入る。 「あっ、ここは日本式なんでここで靴を脱いでください」 靴を脱いで中に入ると、誉さんも同じように中に入ってきた。 「ああ、あれだな。宇佐美くんのお気に入りのイルカくんは。ビデオ通話でよく見ていたから初めて会った気がしないな」 嬉しそうにイルカを抱き上げる誉さん。 なんだか可愛い。 「お気に入りすぎてアメリカまで連れてきちゃいました。きっとこの子も僕と一緒で誉さんに会いたがってたと思いますよ」 「――っ、宇佐美くんも私に会いたいと思ってくれていたのか?」 「えっ? ええ。ずっと電話やビデオ通話で話していると、直接顔が見たくなっちゃいますよね」 そういうと、誉さんはなぜかイルカを抱きしめたまま、嬉しそうに笑っていた。

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