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誉さんの秘密
由依とのことが全て解決したのだと思ったら、胸につかえていた錘が無くなった気がして気が楽になった。
誉さんと話をしているうちにあっという間に夜も更け、そろそろ寝ないと誉さんも疲れているだろう。
寝る支度を済ませて、僕は誉さんに告げた。
「誉さんは今日こっちに着いたばかりで疲れているでしょう。寝室にあるベッドに新しいシーツを用意しているのでそっちを使ってください」
「えっ? じゃあ、宇佐美くんはどこで寝るつもりなんだ?」
「僕はこのソファーで十分ですから」
「いやいや、そういうわけにはいかない。私がソファーで寝るから、宇佐美くんはいつも通りベッドで寝てくれ」
「でも、疲れが取れないでしょう? 僕のことは気にしなくていいですから」
「じゃあ、わかった。こうしよう」
「えっ? わっ! 誉さん?」
誉さんは急に僕の手を取ると、そのまま寝室に行き
「ここで二人で寝れば問題ないだろう」
と言い出した。
「えっ? ここで一緒に?」
「ああ、ここのベッドはダブルのようだしこれだけ広ければ、一緒に寝られるだろう? ソファーで寝たりしたら落ちてしまうよ」
「う――っ」
確かにここのベッドは広い。
だからこっちにきて落ちずに済んでるんだ。
「で、でも、気になって眠れないんじゃないですか?」
「いや、私は全然気にならないよ。逆に一緒の方が熟睡できそうだ」
「え、それって……」
「んっ?」
もしかして、上田とよく寝てるからとか?
いや、流石に上田はないか。
あいつ誉さんと同じくらいの体格してるし。
普通に考えたら恋人とか?
誉さんが彼女とベッドで一緒に……で、熟睡……。
「あの……誉さんって、いつも誰かと一緒に?」
「えっ? ああ、宇佐美くんと同じだよ」
「えっ? 僕と、同じ?」
「ああ。私のベッドにもいるんだ。可愛い抱きぐるみがね」
「えーっ、そうなんですか?」
まさか、誉さんが抱きぐるみと一緒に寝てるなんて思わなかった。
「ああ、うちのはふわふわとしたコリー犬なんだ。実家で飼ってたコリーのボリスといつも一緒に寝ていたから、一人で寝るのが慣れなくてね。そっくりな抱きぐるみを買ったんだよ。それがいつもベッドにいるから一緒に寝るのは慣れてるんだよ」
「あの……それって、上田も知ってるんですか?」
「いや、内緒にしてる。兄の威厳がなくなるだろう?」
「ふふっ。そうですね」
なんだか、誉さんが可愛く思えてきた。
コリー犬に抱きついて寝てるなんて、ふふっ。
想像するだけで楽しくなってくる。
「というわけで、私は気にしないから一緒に寝てくれないか? 宇佐美くんをソファーに寝かすなんてそっちの方が気になって眠れないよ」
「わかりました。じゃあ、一緒に」
「そうか、じゃあ寝ようか。落ちないように宇佐美くんは奥に行ってくれ」
「はい」
先にベッドに横たわると、誉さんが近づいてくる。
うわっ、なんかすっごくドキドキしてきたんだけど……っ。
「じゃあ、おやすみ」
「は、はい。おやすみなさい」
誉さんはニコッと笑顔をみせ、そのまま目を瞑ってしまった。
日本から来たばっかりで疲れてたのに、いろいろしてもらったもんな。
僕に甘えてくれなんて言ってたけど……誉さんこそ、甘えた方がいいんじゃないかな。
きっと上田にも頼られて、甘えることなんてなさそうだもんな。
スゥスゥと寝息が聞こえてくる。
こんなにじっくり間近で人の顔を見たことなんて初めてかも。
由依とはベッドが狭いからっていう理由で一緒のベッドで寝たことはなかったし。
うわ、まつ毛ながっ。
それに肌も綺麗だな。
ほのかなベッドサイドランプの灯りに照らされた誉さんの寝顔が眩しく感じる。
ずっと見てたら眠れなくなっちゃうな。
僕はそっと手を伸ばし、パチっとランプを消して目を瞑った。
いつもより早い鼓動を落ち着かせようと、誉さんを起こさないようにふぅーと深呼吸をしていると、
「わっ、んんっ!!」
突然、誉さんの腕が僕を包み込んだ。
あまりの驚きに声を出しそうになったのを必死に抑える。
その間に僕の身体は誉さんの腕の中にすっぽりと入ってしまっていた。
まさか、起きてる?
と一瞬思ったけど、誉さんからはスゥスゥと一定の寝息が聞こえるから間違いなく寝ているんだろう。
もしかして、僕を抱きぐるみと間違えてるんじゃ?
そう思ったらしっくりきた。
そのほうが誉さんが熟睡できるなら、そのままでいいか。
僕もなんだかすごく安心する。
由依のことも解決してなんの憂いもなくなったからか、僕は誉さんの温もりに包まれたまま、気づけば眠ってしまっていた。
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