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望まない行為
「それで、俺のことを淫行教師だのなんだの言っておきながら、お前は変態か? なんでこの状況でガチガチに勃たせているんだ?」
「は……?」
錦に言われて、省吾は自身の下腹部に目をやる。そしてようやく気が付いた。スラックスの上から確認できるほど、省吾の性器は形を変えていた。
なぜ勃起しているのか自分でも分からない。だがそれを錦に指摘されたことで、いたたまれない気持ちになる。顔が紅潮するのが自分でも分かった。
「キスシーンを見て興奮したのか? なかなか可愛いところもあるじゃないか。ああ、男同士ってのが良かったのか。お前、そっちの気があるもんな」
錦が何を言っているか分からず、省吾は呆然とする。
「まさか自覚がなかったのか? なら先生が教えてやる。お前、男好きな目をしているよ。俺のこともいつもあんな目で見て、気付かないとでも思っていたのか?」
「ち、違うっ。俺があんたを見てたのは……!」
確かに興味があった。憧れていたと言ってもいい。だがそれはあくまで、大人の男としての純粋な憧れであり、邪な目で見たことは一度もなかった。
「言い訳しなくてもいい。俺は男に言い寄られることも慣れているんでね。別にそれでお前を蔑んだりしないさ」
省吾はうわ言のように違う違うと言い続けた。恥ずかしくてこんな姿を見られたくないのに、身体は意思に逆らい萎えていく気配がない。逃げ出したい気持ちに駆られるのに、錦から放たれる圧が、省吾の足をこわばらせた。
「俺に……俺に近づくんじゃねぇよ! この淫行教師!」
省吾は精一杯の虚勢を張る。もちろんこんな言葉が効くわけがないのはもう理解していた。
錦はそんな省吾に呆れた目で見つつも、何かを思いついたように楽し気な表情を浮かべる。
「この期に及んでまだそういうことを言うのか。お前、本当にバカなんだな。それとも俺に構って欲しくてわざと言っているのか? いいよ、それなら構ってやる」
錦が省吾の目前まで迫る。後退ろうにも省吾の背後にはフェンスがあり、これ以上逃げ道はない。
「お前曰く、俺は淫行教師だからな。こういうことするのもおかしくはないだろ」
錦の大きな手が、スラックス越しに省吾の性器を掴んだ。そんなところに触れられると思ってもいなかった省吾は、目を大きく見開きながら、両手で自分の口を塞ぐ。
「なんだ、その反応。問題児だっていうから遊び散らかしてしるかと思えば、意外と初心(うぶ)なんだな」
錦が緩く手を動かすと、省吾の肩が大きく跳ねた。錦はそれを喉の奥で笑う。
省吾自身、性交渉の経験がないわけではない。だが相手は異性であり、互いに了承を取ってから及んだことだ。こんな一方的に、嬲られるような経験は一度もない。相手が自分では太刀打ちできない、屈強な大人の男というのも、妙に緊張させた。
「……っ」
「流石若い。ちょっと触っただけで完勃ちかよ」
服の上からのゆるゆるとした刺激がもどかしく、省吾の息が上がる。錦相手にこんなことは間違っていると分かっているのに、苦しくて身体は強い刺激を求めていた。
「せん、せい……っ」
「ここにきて先生、ね。しおらしいのも悪くはないか。お前ツラはいいのに捻くれているのが勿体ないよな。素直に生きてりゃそれなりの人生送れただろうに」
錦が省吾のベルトに手をかける。カチャカチャと金属の甲高い音がやけに響いて聞こえた。錦の大きな手はあっという間に省吾のスラックスの前を寛げさせ、性器のくっきり浮かび上がった下着を露出させる。
錦は省吾の下着のゴムを持ち上げ、中を覗き見た。自分のもっともあられもない場所を見られてしまった省吾は、羞恥のあまり涙を浮かべる。
「おいおい、泣くなよ。男だろ?」
男だからこそ今の状況が受け入れられず、自分の身体にも、錦の行動にも理解が出来ない。あるのは羞恥と困惑、そして昂ぶりによる苦しさだけだった。
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