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二択
「あんたが遠回りになるから遠慮しとく。それに親は深夜勤務だから家にいない」
「せっかく丸く収まったのに振り出しに戻すなよ、少年……」
「タクシー代って高いんだろ。俺には払えないし……俺なんかに金を使うのは勿体ない」
自分を否定するような省吾の物言いに、錦も春日部もそれ以上なにも言えないようだった。
これ以上錦の手を煩わせたくないという省吾の意思は固い。補導される恐れがあるなら、朝まで身を隠してやり過ごせばいいだけだ。それで誰にも迷惑をかけないなら、それでいい。
話は済んだと省吾は二人に背を向ける。だが錦の声が省吾の足を止めさせた。
「あー、もう。分かったよ。なら俺の家に来い」
「……は? あんたの家?」
どうしてそうなる、と省吾は困惑を隠せない。
「俺が家に帰るためだから、お前に余計なタクシー代はかからない。お前は朝まで俺の家に隠れてりゃ補導はされないし、一石二鳥だろ。適当に朝まで過ごして帰ればいい」
「でもあんた……生徒を家に泊めるとかそれこそ問題だろ」
「男同士な上にお前は問題児。誰かに見つかったとしても言い訳なんていくらでも出来る。夜の街でお前を見かけて補導した。大事にはしたくないから黙ってやっていてくれ、とかな」
相変わらずよくそんな言い訳がスラスラと出てくるなと省吾は感心した。
だがやはり、錦の迷惑になるのは変わりない。省吾は錦の提案を断ろうとする。それを遮ったのは春日部だった。
「錦に金借りて帰るか、錦の家で一晩過ごすか、少年に与えられた選択はどっちかだな。それ以外の選択は俺ら大人には看過できんよ。大人の責任ってのは少年が思っている以上に大きいもんでね」
「それでも……」
「錦も少年のことが心配なんだよ」
「別にこいつのことなんか心配してない」
「素直じゃないね、お前も」
で、どうする? と二人が省吾を見た。省吾はどちらの選択も納得していない。だが二人の圧は、どちらかを選ばなくては許してくれそうにもなかった。タクシー代は借りたところで返すあてがない。残された選択肢は一つだけだ。
省吾は渋々言った。
「一晩、世話になります」
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