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否定
「やっぱりお前は子供だよ」
錦が射貫くような目で省吾を見つめる。
「キスやセックスで分かってもらおうなんて、短絡すぎて反吐がでる。ガキの証拠じゃないか。身体だけが一人前の、ただのクソガキだ」
「あんたが他に何が出来るって挑発したんだろうがっ」
「そうやってすぐ頭に血が昇って、何も考えずに行動するのがガキだって言ってるんだよ! 大人ならそんな短絡的な行動はしない。もっと相手の立場を考えるべきだろう!」
「相手の立場を考える……? それを今のあんたが言えるのかよ!」
「なんだと……!」
互いの感情がぶつかり合う。省吾も、もう我慢ならなかった。
「俺があんたを好きだって言ってもガキだからって信じられないんだろ! 言葉で伝えても冗談だの勘違いだの俺の気持ちを散々否定しておいて、行動で示したらそれも短絡的でガキだって? いい加減にしろよっ、俺をガキだって言い訳にして、あんたは自分を守っているだけだろ! 何が相手の立場を考えろだよ! 俺があんたよりも年下で、それはどうしようも出来ないのに、それを理由に俺の気持ちを否定してんのはあんたじゃないか!」
もう子供だと一線を引かれるのはうんざりだった。どうしようも出来ないのに、大人と子供の間には、目に見えない境界線がいつもある。
省吾の言葉を正面から受け止め、錦の目が泳ぐ。まともに受け止めてもらえなかった省吾の言葉が、錦に届いた瞬間だった。
「俺は、ただ……お前に一時的な感情で動いて欲しくないだけだ。学生が教師に憧れを抱くのはよくあることで――」
まだ言い訳をするのかと、省吾は強く拳を握りしめる。そうでもしないと、何も信じてもらえず傷付いた心が身体を震わせるのを止めることが出来なかった。
「なあ、それってあんたが谷崎を好きになったのと、どう違うんだよ」
今の省吾とそれほど歳の離れていなかった錦が、教員である谷崎に恋をした。それは錦が今語ったことと、何が違うと言うのだろう。
「自分も俺と同じように先生って立場の人を好きになって、あんたはそれを恋だと認めたくせに、俺があんたを想う気持ちは勘違いだって否定するんだな」
「それは……」
「俺があんたに釣り合うとは思っちゃいない。叶う恋だって最初から思っちゃいなかった。でも俺の気持ちを勘違いだって決めつけて、否定するのはさすがにひでぇよ」
気持ちを認められたうえで、それを拒否されるほうが何倍も良かった。それなら諦めもつく。だが気持ちを否定され、まともに取り合ってもらえないこの状態は、拒否されるよりも余程残酷だ。
「俺の気持ちは、俺のもんだ。俺が一番よく分かってる」
感情の整理が追い付かず、涙がこみ上げてくる。こんなことで泣く姿を錦には見せたくないと、省吾はよろよろとした足取りで部屋の出入り口へと向かった。
今のこの状態で錦と話すことはなにもない。錦もそう思っているのか、省吾を引き留めようとはしなかった。
扉に手をかけ、振り向くことはしなかったが、どうしてももう一度これだけは伝えておきたいと、省吾は声を振り絞る。少しでも錦に伝われば、それだけでこの恋は報われると思った。
「俺はあんたが好きだよ。憧れでも勘違いでもなく、錦公太郎に恋してる。俺が好きなのは、この世であんたしかいない」
省吾はそれだけ言うと、部屋を出る。涙は浮かぶが、こぼさなかった。ただこれでこの恋も終わったと、傷付いた心を自分で慰めるだけだった。
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