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愛のある関係

「なあ、俺を信用して任せて」  お願いだからと懇願する。錦は困ったように眉を寄せ、散々迷ったあとにこう言った。 「信用してないとか、そういうんじゃなくて……。俺、こういうのは初めてでちょっと戸惑っている」 「初めて……? でもあんた経験あるだろ?」  谷崎の名前は出したくなくて、遠回しにそう伝える。 「そういう関係はあったけど、こんなんじゃなかった。お前みたいに触ろうとしなかったし、準備だって……」 「なんだそれ。あんた、今までどんなセックスしてたんだよ」 「どんなって――」  錦は困ったような、泣きそうな顔をした。  愛撫されたこともなければ、抱かれるための準備すら谷崎はしてくれなかったというのか。谷崎と不倫関係を何年も続けておきながら、愛のあるセックスをしたことは一度もない。それを本当に抱かれたと言っていいのか省吾には分からない。ただあまりにも錦が不憫だった。 「先生……は情緒がないな。公太郎さん、でいいか? なあ公太郎さん」  名前で呼ぶと錦が小さく震えた。名前で呼ばれることにも慣れていないようだった。 「俺と本当のセックスをしよう。俺も男を抱くのは初めてだし、そもそもあんまり経験ないけどさ。それでもその……ちゃんとあんたを愛したいと思っているから」  好きだから色んな姿が見たい。自分の手で啼かせて、感じてもらいたい。愛しているから錦を自分で満たしたいと思う。今まで錦がしてきたセックスなど、自分との思い出で塗りつぶしてやりたかった。  錦からの返事はない。返事はないが、そっと触れても、もう拒否しなかった。  省吾は錦に覆いかぶさるとキスをする。身体を重ねることに意識しすぎて、大切なことを忘れていた。愛を伝えるにはまず、キスを交わさなくてはいけない。  触れるだけのキスをしたときはあんなに不敵で余裕を醸し出していた錦だが、舌を差し込む深いキスでは、途端にたどたどしくなった。触れられたことがないと言った錦は、こういうキスをしたこともないのだろう。自分が初めての男のようで、歓喜で身体が震えそうになる。  裸で密着すると肌と肌がこすれ合い、生々しい感触に肌が粟立った。こんなセックスは初めてだと言った大人の男を、子供である自分が組み敷いていることが不思議でたまらない。  舌を絡ませながら胸の先端に触れてみる。指の腹で撫でてから軽く弾いてやると、錦の身体が小さく跳ねた。胸で感じる男は半数だと聞いたことがあったが、錦はその半数に含まれているようだ。  錦をキスから解放し、省吾は胸の先端に吸い付いた。小さなボタンのような突起は触れられたせいで赤を濃くしている。錦の甘い匂いも相まって、本物の果実のようだ。 「ん……っ」  錦が喉の奥でくぐもった声を出す。出来るだけ声を抑えようと、両手で必死に口元を塞いでいた。 「公太郎さんの声、聞きたい」  錦は頼りなく首を横に振る。 「男の喘ぎ声なんて、萎えるだろ」 「好きな人が自分で感じてくれた声なら興奮する。声、抑えるなよ」  それでも錦はかたくなにそれを拒否する。恥ずかしがりながらもまだ意思を貫く余裕があるのだなと、省吾は少し意地悪をしたい気持ちになった。  下着の上から性器を揉みしだくと、薄い布越しにそこへ口付けをする。人に触れられ慣れていないそこは、少しの刺激でじわりと露を漏らし、下着に染みを作った。  錦は真っ赤になりながら、止めろと目で訴える。 「止めるわけないじゃん。あんた、あの時屋上で止めてくれなかっただろ」  根に持っているわけではないが、こんな錦を見ていると、仕返ししてやりたい気分になる。  下着を少しずらして、窮屈そうな性器を解放してやる。同性の勃ち上がった性器を目にするのは初めてだが、抵抗感は意外とない。これが錦のものかと思うと愛らしいとすら思う。  気が付くと省吾はそれを口に含んでいた。ほとんど無意識に、自然と口淫していて自分でも驚いてしまう。だがされている錦は省吾よりもよほど驚愕していた。 「あ……や、やめ……っ」  両手で塞いでいるのに、錦の口から甘い吐息が漏れる。自然と腰が浮き、身体が逃げようとしていたので省吾は片手で錦の腰を掴み、自分へと引き寄せた。  口の中で育っていく性器が面白い。同じ男だからこそどうすれば良いのかなんとなく分かった。裏筋に舌をはわせ、先端を軽く吸い上げると、錦の大きな身体はびくびくと震える。触れられ慣れていないからか、もしくは元から感じやすいのか、錦の身体は少しの刺激にも敏感に反応する。こんないやらしい身体を愛してもらえなかったのかと可哀そうになるが、本当の意味で自分が初めての男になるみたいで、喜びが沸き上がった。 「んっ、ぁ……」  錦の甘い声はどう聞いても男性の声だ。だが掠れた低い声がなんともセクシーで、省吾の下腹部に熱がぐっと凝縮されていく。頭に血が昇り、理性が端へと追い詰められていった。 「は、速水……本当にそれ以上は、止めてくれ……っ」  観念したように錦が言う。だが省吾は止まらない。止められなかった。大人の男を翻弄しているこの状況に、省吾の雄の本能がもっと錦を征服したいと駆り立てていた。  獲物を追い詰めるように錦の弱い部分を責め立てると、参ったと言わんばかりに悲鳴のような声を錦が上げる。

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