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第33話
その日は亮介と湊と一緒に課題をしていたから大学を出るのが少し遅くなってしまった
それでも家まで送ってくれると言う2人に、「それじゃぁ家でご飯でも食べてかない?」と言えば2人は嬉しそうに頷いた
「でもさ、よかったのか?」
「何が?」
「ご飯は楓と一緒によく食べてるだろ?俺達も混ざっていいの?」
「あー、楓なら先輩の手伝いで帰れそうにないって連絡がきてたから俺達3人だけだよ!」
「なるほどね。まさか尚也、、、お前一人じゃ寂しかったから俺達の事誘ったのか?」
なんてニヤニヤしながら言う亮介に「うるさいよ。」なんて返せば、それまで黙って聞いていた湊も「へぇーそうなんだ。尚也お前可愛いなぁ」なんて乗ってくる
「お前らうるさい、、、もう早く帰ろう。」
そう言いながらスタスタと先を歩く俺に2人が後ろから凄い勢いで抱きついてきた
「そんじゃ3人で楽しみますか!」
そう笑い合いながら楽しく帰宅したのに、ポストに入っていた紙を見て言葉を失った
相変わらず友達と仲がいいね。いい事だけどちょっと距離が近いんじゃないかな。今日だってこの後楽しく過ごすんだよね。そろそろ我慢の限界だな。
それはついさっきまでの俺らのやり取りの内容に触れるもので、、、
一気に背筋が凍り手がカタカタと震え出した
明らかにおかしくなった俺の雰囲気に2人が怪訝な顔をしながら覗き込めば、すぐに息を飲む音が聞こえた
「なぁ、これって大学での俺らの会話聞いてたって事だよな、、、」
そう話す亮介の声からは戸惑いが感じられた
すると湊が「このそろそろ我慢の限界だな。ってヤバいんじゃないの、、、」と声を漏らす
その声に3人同時に身震いをすれば急いで俺の部屋へと向かい鍵をしっかりとかけた
テーブルに紙を置き囲むようにして座って顔を見合わせれば亮介が口を開いた
「なぁ、もう近いうちとか言わずに今からでも警察に行った方がいいんじゃないか?」
「俺もそう思う、、、。俺達も付き添うし。」
2人の言葉に俺もそう思ったけど、時刻は既に22時を回っていて、、、
こんな時間に2人を付き合わせるのも悪い気がして俺は首を横に振った
「今日はもうこんな時間だし、それに今から何かしてくるとは思わないから。」
「でもさ、、、」
「明日、明日学校終わったらそのまま警察に行くから。だから今日は大丈夫。」
俺のその言葉に「だけど、、、」と2人はまだ何が言いたげな表情をしていたけど渋々頷いてくれた
その後は2人をこのまま帰すのは危ないと思い、家に泊まってもらった
翌朝、授業がお昼からの為2人は着替える為に家へ帰ったが、出る前には「俺らが迎えに来るから絶対1人で行ったりするなよ。」と何度も言われた
お風呂を済ませ用意をし、2人がくるのを待って3人で大学へ行けば楓から連絡がきた事で4人でお昼をとることになった
楓と合流すれば、亮介と湊がすぐに昨日の内容を伝えたことで楓が怪訝な顔を見せた
「紙入れられてた以外に他は何もなかったか?」
「ないと思うけど、、、」
「本当に?」
「うん、、、」
「昨日3人でその会話してた時周り誰もいなかったのか?」
「周りに何名かまだ残ってる学生は居たけど、、、でもほんとにそれだけ、、、その学生も遠くに居るな〜ぐらいの距離感だったし」
「そっか、、、」
考えても分からない状況に得体の知れない恐怖だけが募っていく
普通に生活していただけで、誰かも分からない人に監視されるような生活になるなんて....
昼食の後は、先輩の手伝いがまだ残っていた楓とは別れ授業を受けるが、頭に入ってくる訳もなくただボーッと過ごす事しか出来なかった
授業が終わった事も気付かずに座っていれば肩を叩かれてハッとする。心配そうに俺の顔を覗き込む2人と目があう
「授業終わったけど大丈夫か?」
「んー、、、なんでこんな事になったんだろってちょっと考えてた」
「そっか、、、」
俺ら以外誰もいなくなったこともありシンと静まり返る空気を破るように湊が「これから警察行くんだしきっともう大丈夫だよ!」と明るく言った
「それもそうだね。」そう言って立ち上がり講義室を後にした
もう少しで大学を出るという所で亮介が忘れ物をしたから少し待っててと来た道を走って戻っていく
暫く湊と2人で待っていれば、湊の携帯が着信を知らせるけど、「知らない番号だ....」と不審な顔をしたけど「ちょっとごめんね。」そう言って電話に出た
すると、タイミングを見計らったように1人の男性から声をかけられた
スーツを着ていたその人は困ったように「ちょっと場所を聞きたくて、、、」そう口にした
詳しく話を聞けばここから近いビルの名前が出てきて説明をするけど男性は困り顔のままで、、、
連れていった方が早いかな、、、そう思い湊の方を見ればまだ電話をしている様子で
少し道案内するだけだし大丈夫かな。そう思って、[道わかんなくて迷ってる人いたからちょっと案内してくる。] 3人のグループトークにそう送ってから、「案内しますよ。」そう言って男性と歩き出した。
「もう少ししたら見えてきます。」
「尚也くんは本当に優しいね。」
「えっ、何で俺の名前、、、俺名前言いましたっけ?」
そう口にすれば男性がニヤリと笑ったのが見え "やばい" そう思った時には手を捕まれそのまま引っ張られた
「離してください!!!」
そう言いながら腕を振るも力強く掴まれた手は離れる事はなくて、、、
どんどん人気がなくなっていき、完全に人がいない路地裏へいけば俺を抱きしめてきた
「俺はこんなに尚也くんの事が好きなのに君は友達とばかり、、、あんなに近い距離も許して、、、君の恋人は俺なんだからダメだよ。」
「こい、、、びと、、、?」
「そうだよ。君があのマンションに引っ越してきた時、俺に笑顔で挨拶してくれたでしょ?可愛いなーなんて思ったら次会った時にはあんな格好で笑顔見せてくれるし、それって俺の事好きだからでしょ?」
マンションという単語に男の顔をよく見てみればあの日エレベーターで慌てて駆け込んできた男性だということに気付く
だけど男の言ってる事は理解出来なくて、、、何も言えずにいる俺に構わず男は話し続けた
「しかも大学で君を見かけてさ、これはもう運命だなって思って。」
「えっ、、、」
「俺、あの大学で非常勤講師してるんだよ」
その言葉に昨日大学内で話していた内容が何故か知られていた事に納得して
そして思い出す。あの時まだ大学からは出ていなくて敷地内にいたはずなのにこの男に声を掛けられたことを
「本当は君の家で過ごしたかったけど毎日お友達が来るから、、、だから今ここで2人の時間楽しもうか。」
そう言いながら首元に顔を擦り寄せれば響くリップ音
"気持ち悪い" そう思い引き離そうとするけどビクともしなくて
そのまま男は俺の服に手をかけ露になる体
「やだ、、、」と声を漏らしながら必死に手で隠すけど、恐怖で震える手はいとも容易く除けられ、男の舌が這う
「い、、や、だれか、、、たすけて、、、」何とかそう声を出し抵抗すれば頬に感じる痛み
じわじわと広がる痛みに頬を叩かれた事に気付く
その瞬間頭の中である記憶が蘇った
"たすけて、、、" そう言いながら泣く幼い俺の服に手をかける知らないおじさんの姿
忘れたいと願い奥底に閉まった記憶
小学生の時に、はるにぃ達と公園でかくれんぼをしていれば、一人隠れている俺の後ろから誰かが近付きトイレに連れ去った
自分よりも遥かに大きい大人に口を塞がれながらも何とか声を出そうとすれば、容赦なく手を上げられた
恐怖で大人しくなった俺の服を脱がせれば、ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべたおじさんの手が肌に触れる
思い出したくなかった
幼い自分が襲われた記憶
"こんな時に思い出すなんて、、、"
だけどあの時は居なくなった俺に気付いたはるにぃが大人の人を連れて駆けつけてくれたっけ、、、
でもあの時助けてくれたはるにぃは今はいなくて、、、
どんどん溢れ出す涙
思わず「はるにぃ、、、」と小さな声で呟いた時だった
「なおや!!」聞きなれた声で名前を呼ばれた気がして、、、
視線を移せば肩で息をしたはるにぃが立っていた
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