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第11話
僕はパンツ一丁の格好で、自分の部屋に向かって全速力で走った。途中誰かとすれ違ったみたいだが、そんなこと全く気にならなかった。頭の中は照の告白のことでいっぱいで、そのことに気づかなかった自分の不甲斐なさと、次に照と会う時、自分はどんな態度で照と接すれば良いか分からず、完全にパニックになった状態で僕は、頭を掻きむしりながらただひたすら走った。
自分の部屋の前まで来た時、僕は照の部屋に、自分の部屋の鍵を忘れてきたことに気づいた。僕はしまったと思ったが、もうどうでもいいやという投げやりな感情になり、思い切りドアを叩いた。
「ヴァレリオ! 開けてくれ! 早く!」
僕は大声でそう言いながらドアをがんがんと叩いた。
「摩央……か?」
扉の向こうからヴァレリオの怪訝な声がする。
「そうだよ! 早く! 鍵がないんだ!」
僕はそう言うと、ドアノブをガチャガチャと回しながらドアを引いたが、次の瞬間、急に手前に動いたドアに、僕の体は後ろにのけ反りそうになった。
『あ、またテレキネシス使ったな』と思ったが、そんなこと今はどうでもいい。
僕は開いたドアの隙間に滑り込むと、ドアに背中を預けながら思わず天を仰いだ。上を向いていないと、泣きそうになってしまうからだ。
照から『好きだ』と告白されてしまい、僕は今照という大親友を失った悲しみに心が張り裂けそうになる。僕が親友だと思っていた相手は、僕に恋愛感情を持っていて、あろうことか僕を性的な目で見ていた。こんな笑い話があるだろうか? ただ、死にたいほど悲しいのに、自分の中心は未だ硬く存在をアピールしている。僕はそんな自分の体が憎らしくて、手に持っているパジャマでそれを覆い隠そうとした時、目の前にいるヴァレリオの存在を、一瞬忘れていた自分に気づいた。
「摩央……これは一体どういう状況だ?」
ヴァレリオは僕を観察するように見つめながら、そうゆっくりと言った。
僕は自分の中心を両手で隠すようにしながら、ヴァレリオを見上げた。こんな情けない姿を、まさかアルキロス星の王子様に晒すとは夢にも思わなかった。どんな言い訳をしようかと頭を巡らせたが、今の自分には、気の利いた言い訳など何も浮かんでこない。
「照が……僕を好きだって」
「照?」
「そう。さっき好きだって告白されたんだ……嘘みたいだろう? 全然気づかなかった」
僕はヴァレリオに、照とのことをつい独り言のように口にしてしまった。こんなセンシティブなことを軽はずみに言ってはいけないのに。照とのことを自分の中に留めておけない自分がひどく情けなくて、僕は下唇をぎゅっと噛んだ。
「意味が分からない。摩央はお手伝いの家に行ったのだろう? 何故照が出てくる?」
僕は大きく溜息を吐くと、全くその通りだと思いながら、ヴァレリオの問いかけにこう返した。
「そうだね……ヴァレリオ。でも、それには色々事情があるんだ。嘘をついてしまって本当にごめん」
こんな嘘つきなルームメイトなど、流石のヴァレリオも呆れているだろう。だったらこれを機に、ルームメイトの解消と、ヴァレリオが映画の出演をやめるという、僕にとっては非常に都合の良い展開になることが期待できる。でも、例えそうなったとしても、僕にはもう照という相棒がいないのも同然だから、この先映画を撮り続けられる可能はとても低いということになる。
「なるほど。でも、どうして摩央は裸でいる? それに、摩央の性器は、何故生殖を行う準備をしている?」
その言い方に僕は思わず吹き出した。その言い方には、性行為とは生殖のための純粋な行為だというニュアンスが含まれているように感じるからだ。地球人のように、快楽のためだけに性行為をするというような価値観は端からないような言い方だ。
「バレたか……でも、それに関しては話したくない」
僕はそう言うと、股間を抑えたままトイレに向かおうとした。このままでは寝られそうにない。自分で処理しないといけない。
「待て」
その時、ヴァレリオ特有の重低音な声で僕は呼び止められた。その声には、僕の脳内を支配する力でも備わっているのか。無視してトイレに行きたいのに、何故かヴァレリオのその声を聞いてしまうと、僕の意思が上手く機能してくれない。
「な、何?」
僕はその力に抗うようにそう強く言い返した。
「照に好きだと告白されたと言ったな? それで? 摩央の気持ちはどうなんだ?」
ヴァレリオは僕にゆっくりと近づくと、僕の背後で立ち止まった。
「ぼ、僕は……照を本当の親友だと思っていたから、凄く驚いたし、これがきっかけで友人関係が終わってしまうと思うと凄く悲しかったよ……だって、僕は照に恋愛感情はない。僕はノーマルだから……」
「ノーマル? ノーマルとは異性愛者という意味か?」
「そ、そうだよ!……ねえ、もうこの話はやめよう。僕、トイレに行きたいんだよね」
実際僕は今まで誰かを好きになったことがない。だから自分はノーマルだと自信を持って言えるほどの恋愛経験がない。そんな僕はむしろ無性愛者なのかもしれない。時々ふとそう思って怖くなることがあるが、八重さんを亡き母のように慕ったり、照を親友として大切だと思ったりする感情は確かに持っている。でも、誰かを好きになり、その好きな相手に触れたい、抱きしめたい、キスをしたいという欲望みたいなものは、異性にも同性にも今まで湧いたことがなかった。そんな僕が愛をテーマにした映画を撮ること自体、馬鹿げているのかもしれない。
「何故トイレに行きたい?」
ヴァレリオは背後から僕の肩を掴むと、またあの重低音な声でそう言った。
「お、男なら分かるだろう? は、早くこれを鎮めたいんだよ!」
僕は股間を抑える手に力を込めると、何でこんなこと言わせるんだと思いながらそう叫んだ。
「照か? 摩央の性器がそうなった原因は……」
「ち、違う……そういうわけじゃなくてっ」
「じゃあ、どういうわけだ? 摩央がノーマルなら、男に何をされても反応しないのではないか?」
そうなのだろうか? 否、でも、僕も一応若い男だ。普段は性的なことに淡白でも、他人から刺激を与えられたら、若い男の体は生理的に反応してしまうはずだ。ただそれだけのことだと思いたいのに、ヴァレリオの言葉が心の隅に引っかかり、不安な気持ちにさせられてしまう。
「そんなこと、アルキロス星人には分からないよ。地球人の感情と体は複雑怪奇なんだ!」
「そうか……では、試してみよう。どれだけ地球人が複雑怪奇か。俺はそれを勉強してみたい」
「へ?」
ヴァレリオはそう言うと、股間に置かれた僕の手を取り、いきなり引っ張った。
「ちょ、ヴァ、ヴァレリオ! 何してる?」
ヴァレリオに強く手首を掴まれた僕は、そのままベッドまで引っ張られ、そこに、いとも簡単に放り投げられる。
「わっ! ちょ、ちょっと待って! 勉強って何??」
「悪いが摩央、テレキネシスを使わせてもらう。許してくれ」
えーーー!!!
僕はベッドの上に大の字になると、まるで十字架に磔になったキリストのように体が動かなくなった。
「ま、待って、ヴァレリオ! 君だってノーマルなはずだ! アルキロス星には同性愛など初めから存在しないはずだろう? 君がおかしな真似をしてまで勉強する意味はない!」
僕はあまりのことに焦りまくり訳の分からないことを口にしているかもしれない。でも、こんなことはやめさせなければいけない。ヴァレリオは今不安定な状態にある。ワクワクするなどということを何度も口にするなど、地球に来てからヴァレリオは、確実に感情というものを学び吸収し始めている。このまま何事もなくヴァレリオの留学を終わらせるためにはどうすればいい? その方法を考えたいのに、僕の頭と体は全然動かない。
「意味? 何を言っている? 大いにあるのが摩央には分からないのか?」
「わ、分からないよ! ヴァレリオ! お願いだ! 今すぐテレキネシスを解いてくれ!」
「駄目だ……摩央、そのまま黙って俺に身を委ねろ……」
ヴァレリオはそう言うと、ベッドの足元に立ち僕を見下ろした。ヴァレリオの黒曜石のような黒目は怪しく輝いていて、まるで僕の体を撫でまわすように、その宝石のような瞳を執拗に這わせてくる。
僕はその瞳が動くたび、僕の心臓が、自分の意思に反しドキドキと高鳴り始めていることに気づく。最悪なのが、鼓動が激しくなるに合わせて、自分の中心がさらに硬度を極めようとしてくることだ。
僕の体は一体何に反応しているのだろうか。そんな自分の心と体の裏腹さに、どうしようもない焦りと苛立ちが込み上がって来る。
「いやだ……ヴァレリオ、お願いだ、こんなことやめて!」
ヴァレリオは僕の懇願を無視すると、僕の足元から、ゆっくりと這い上るように、僕の上で四つん這いになった。両手は僕の耳の脇に、膝はわざと僕の両太腿の内側に置き、さらに足を開かせようとする。
「摩央……摩央の性器が益々大きくなっている。これはどういうことだ?」
「知らない、知らないよ! 自分でも良く分かんないよ! だから、お願い! 早く僕を自由にしてよ!」
僕は首を左右に振りながら思い切りそう叫んだ。
「知らないなら、知ることが大切だ……我が星では知識を得ることが一番の美徳だ」
「関係ない! ここは地球だ!」
僕がそう叫んだ次の瞬間、僕の下着が一気にずり降ろされたことに気づいた。慌ててそこに目をやると、しっかりと屹立している自分の中心が目に飛び込んでくる。
「あっ」
ヴァレリオも僕と同じように僕のそれに目を遣ると、満足そうな目で僕に視線を戻す。
「実に不思議だ。こんな気持ちは初めてだ。摩央の性器が躍動していることに胸が熱くなる……やはりそうだ。俺に変化が起きている。その変化は、俺がずっと前から追い求めたいたもののような気がする……」
ヴァレリオは熱のこもった声でそう言うと、真上から僕を真っ直ぐ見つめた。
「摩央……奇麗だ」
「い、いやだ……その声やめてっ……頭がぐちゃぐちゃになるっ」
僕はもう半べそになりながらそう言った。その重低音は容赦なく僕の理性を壊しにかかって来る。
悔しい。何で僕はこんな宇宙人に自分のセクシャリティを暴かれそうになってるんだ!
僕が心の中でそう叫んだ時、ヴァレリオは僕の顎を掴むと、素早く僕の唇にキスを落とした。
「ふっ、んん」
唇が軽く触れ合ったと思った瞬間、ヴァレリオは僕の顎を下に引き口を強引に開かせると、舌を容赦なく差し入れてきた。お互いの舌が触れ合うと、まるで稲妻が落ちたみたいに、ビリビリと僕の体に電流が走り抜ける。
僕の体は全く動かないから、抵抗したくてもできない。されるがままヴァレリオから浴びされるキスは、本当に感情の乏しい宇宙人のものなのかと疑うほどに巧みだ。
気が付くと僕は夢中でヴァレリオ舌を追い求めていた。信じられないが、その欲望は僕の内側から純粋に溢れ出てくるような気がするのが分かる。何故なら僕の体が、その欲望が満たされていくことに、素直に嬉々しているからだ。
「はあ、はあ、ヴァレリオ……」
僕はキスだけでイキそうになっている自分のそれがひどく憎らしいのに、快楽を強く求めてしまう自分の欲望に抗うことができない。
「むり、もお……苦しい、はやくっ」
僕はヴァレリオから口を離すと、そう懇願した。
「解った」
ヴァレリオは察したようにそう言うと、僕の中心まで顔を下した。
「え? え? 待って! そんなことしなくていい!」
流石にそこまでのことを望んでいなかったから、僕は焦ってそう叫んだ。
「ああっ」
ヴァレリオに自分の中心を咥えられた瞬間、僕は背中が仰け反るほどの衝撃を受けた。
「うわっ、は、ああっ、ヴァ、ヴァレリオ……」
ヴァレリオの熱い口腔内で弄ばれる僕の中心は、今までに感じたことのない愉悦にわなわなと怯えている。ヴァレリオの口腔内での舌遣いはキスの時と同様に巧みで、アルキロス星人のポテンシャルは底が知れないと驚愕してしまう。
「イ、イクっ、イクよ、はあ、ああっ」
僕はビクビクと体を震わせながら、ヴァレリオの口の中に、ついに精を放ってしまった。
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