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第17話

 僕が二人の部屋に交互に泊まるようになってから二週間が過ぎた。その間、特にこれといった進展はない。それは、前期のテスト期間に突入してしまったからだ。照は一つでも単位を落としたら、両親に学費を出してもらえないという強迫を受けているから、ここで勉強を疎かにするわけにはいかなかった。その環境は僕も同じで、僕も父親から強いプレッシャーを受けている。多分父は僕が映画の撮影をしていることを知っているだろう。だからこそ単位を落としたのがそのせいだとは絶対に思われたくないから、僕は意地でも頑張らなければならない状況にある。  ヴァレリオだけはテスト期間は関係ない。彼は僕に気を遣い僕の邪魔をしないようにしてくれている。その間、さらに深く日本の文化を漁るように学び吸収している。下手したら僕より日本のことに詳しくなっている気がして、僕はその、ヴァレリオの止まることを知らない成長力に、何度も驚かされている。  映画の撮影は、三分の二は撮り終わっている。今はテスト期間で中断していて、残りの撮影は、テストが終わった夏休みに行おうと考えている。  照は机を僕に貸し、自分は床に小さなテーブルを置いてそこで勉強をしている。  勉強中の照はいつも眼鏡をかけている。僕はまだ眼鏡姿の照に中々慣れない。普段の照とのギャップがありすぎて、ここにいる照が、僕の知っている照ではないような気がして落ち着かないのだ。  照は持ち前の集中力で透明ディスプレイから流れる講義の映像を見ながらノートをとっている。その真剣な横顔に、僕は何故か心を奪われる。上手く説明ができないのがもどかしいが、多分素直に、僕がそんな照を魅力的だと感じているのだと思う。  普段の行動や言動がチャラいのだからしょうがない。ギャップ萌えという、化石化した言葉にまんまとハマっている自分が格好悪くて嫌になるが、心は正直というものなのかもしれない。  これが好きって気持ちなのだとしたら……。  僕はそんことをぼんやり考えながら、思わず照をしばらく見つめてしまっていた。 「何? そんなに俺を見つめて。構ってほしいの?」  照は僕の視線に気づいていたのか、こちらを見ずにそう言った。僕は慌てて視線を机に戻すと、『ち、違う』と言っている自分の顔が、恥ずかしさで紅潮していることに気づく。  照はおもむろに立ち上がると、僕に近づいた。 「休憩しよう」  照は僕の両肩に手を置くとそう言った。  「あれ? 摩央って肩凝るんだね。意外……」  照は、僕の両肩に置いた自分の手に力を入れると、僕の肩を揉み始める。人から肩を揉まれるのはこれが初めてだが、照の揉み方が上手なせいか、意外にも気持ちが良くて、僕は思わず口から吐息混じりの声が漏れる。 「んっ、そこ、ああ、気持いい……」  僕は首をくねらせながら、思わずそんな言葉を漏らした。自分でも恥ずかしいことを言ってしまったと焦っていると、照が突然僕の肩を揉む手を止めた。 「……そんなに気持ちいいの?」 「え?」   僕が驚いてそう聞き返すと、照は僕の首筋にするりと両手を滑らせ、掌で僕の顎を覆い、顔を上に向かせた。 「て、照?」  僕は仰け反るように上を向かせられると、既に僕の目の先には照の顎があり、僕の唇の上には照の唇が触れている。 「ふ、んっ、て、照!」  僕は照からのいきなりのキスに態勢が不安定になり、慌てて回転椅子の手すりを掴むと、自分の体を支えた。  照は僕の顎を両手で持ち上げるようにして、深いキスを落とした。舌が奥まで入ってきて、えづきそうなほど激しい。 「照っ、く、苦しいっ」  僕がそう言って体を起こそうとすると、照は一旦キスをやめ、回転椅子を回して自分の方に僕の体を向けさせる。 「ごめん……摩央がエロいこと言うから、つい……」 「エ、エロいことって、そんなつもりじゃ……」  僕が顔から火が出るほど恥ずかしくて、思わず下を向いた。 「気持ちいいって、もっかい言って」  照は僕の手を引き立ち上がらせると、そっと僕の耳に口を寄せてそう囁いた。 「や、やだよ、言わない……」  僕は耳がくすぐったくて、身をよじりながらそう言った。 「じゃあ、もっと気持ちいいこと、今からしてもいいってことで……」  照はそう自己完結すると、僕の頬をしっかりと両手でホールドしながら、またキスを続ける。僕も照の勢いに飲まれるように照の舌を追いかけてしまい、角度を変えながらお互いに深いキスを与え合う。  「はあ、摩央……好きだ……」  何度目の『好き』だろう。僕はまだ一度も照に『好き』だと言っていない。 「ふっ、んん、照……僕もっ……」  そこで言葉が詰まる。僕はこの場の勢いに流されて『好き』と言ってしまいそうになっているのか。それが分からなくて、急に悲しい気持ちになる。   照はまたキスをやめると、僕の頬を両手で持ち上げ、僕の顔を探るように見つめた。 「いいよ。分かってる。俺は焦らない性分だから、安心しろ」   照は、悲しげに瞳を揺らしながらそう言った。 「いや、だから……何ていうか……もう少し時間がほしい……ごめん」  僕は、切ない気持ちに後押しされるように照に抱きつくと、そう心を込めて言った。 「もう、俺を好きってことで良くない? 違うの?」  照は少しイライラしたように僕を引き剥がすと、僕を自分のベッドの方に引っ張った。 「照! 待って」  僕は照に手を引かれるがままベッドに座らされると、照は黙って僕の脇に腰かけ、キスの続きを始めようとする。 「て、照、休憩でしょ? コーヒーでも飲まないか?」  そう言って立ち上がろうとしたが、僕は照に両腕を掴まれてしまいそれが叶わない。 「……いらないよ」  照はそうぶっきらぼうにそう言うと、僕はまた照に唇を奪われる。 「ふっ、ん……はあ」  照の舌は滑らかで熱く、舌と舌が触れ合うたびに僕は正気を失くしそうになる。自分が今いる場所や時間すらうまく認識できないくらい、夢と現実の境界線が曖昧になってしまう。僕は、薄れそうな理性で必死に現実と繋がろうとしながら、照とキスをする。  照はキスをしながら僕の太ももに手を伸ばした。その手は僕の股関節辺りをいやらしく掠めながら、太ももを上下にまさぐる。それは、僕の敏感な部分わざと避けるような触り方で、僕はそれに強い興奮を覚えてしまう。そんな自分が恥ずかしくて嫌なのに、僕の心と体は裏腹で、照の手つきによって、まるでダムが決壊したように、熱い血が僕の全身に嬉々と巡り始める。 「て、照、やめてっ」  僕はそう言って照の手を掴んだ。僕の中心はすでに屹立し始めていて、それを照に知られてしまうのはやっぱり恥ずかしい。 「いやだ。やめない」  照はそうきっぱりと言うと、いきなり僕の核心へと手を滑らせる。 「あっ、ダメ」  服の上から照は、僕のそれをまさぐる。でも、意外にも緊張しているのか、その手つきは少しぎこちない。僕はそのぎこちなさに強い興奮を覚える。それはとても照らしくないことだからだ。  もしかしたら、照がぎこちないのは、同性の性器に触るのが初めてだからだろうか。風呂場の時の照はこなれているように感じたけど、実際はどうなのだろう。僕はそれが急に気になった。 「……や、やめてくれないなら、僕も触っていい? 同性とこんなことするの、僕が初めてだよね?」  僕が照にそう問いかけると、照は驚いたように手を止めた。 「……当たり前だろう。摩央以外とこんなことしたくないよ」 「でも、女の子とはしたよね?」 「……い、いや、それは、自分を誤魔化してたから、自分はゲイじゃないって、そう思い込もうとして必死だったからだよ……」  僕は照の言葉を聞いて、嬉しいのに悔しいという複雑な感情を覚える。これが嫉妬という感情なのだとしたら、自分はいたって普通な人間なのだと思えて、何となくホッとする。 「摩央……どうしたの?」  照は、急に黙った僕を困惑したように見つめた。その顔が、僕の中に愛おしいという感情を込み上がらせる。これが恋というのなら、きっとそうなのだろうと素直に思えてしまうくらいに。 「いや、何でもない……ねえ、照、僕も触るよ? いいよね?」  僕はそう言うと、照の体をゆっくりとベッドへ押し倒した。仰向けになった照の体に強く存在するそれは、僕以上に熱く硬くなっていた。その事実に僕は、嬉しさと愛おしさを同時に感じ、その感情はまるで競合するように、僕の中でどんどん大きくなっていく。  僕はベッドに仰向けで寝そべる照の中心に手を伸ばすと、履いているズボンと下着を下ろし、照の中心を露にさせた。そそり立つ照のそれはとても立派で、僕のとは形も大きさも違う。 「綺麗だな……」  僕は照のそれを掴むと、惹き寄せられるように、思わずまじまじと見つめた。 「そんな、見るなよ……すげー恥ずかしいじゃん」  僕は、恥ずかしそうにそっぽを向く照の顔に、またキュンと胸がうずき、自分まで頬を赤らめた。 「正直な感想だよ……照は本当にかっこいい」  僕はずっと感じていたことを照に打ち明ける。  僕は照に出会い、今まで何度も助けられ何度も励まされてきた。そして、気づけなかった自分が心底憎らしいが、知らない間に沢山愛されていた。そんな感謝の気持ちがその褒め言葉に込められているなんて、口でちゃんと説明しなければ、多分伝わらないだろう。 「ああっ、もう!」  その時、照は突然叫ぶようにそう言うと、いきなりにベッドに膝立ちになった。 「早く、摩央も脱いで、俺の前に膝立ちして……二人で一緒に、いこう……」 「え? 行くってどこへ?」 「バカか? そんなこと聞くなよ」  照は呆れたようにそう言うと、言われた通り膝立しようとする僕の腰に手を回し、強く引き寄せた。 「ほら、脱いで……」  照はそう言って、僕のズボンと下着に指を入れると、苛立ちながらずり下す。 「まっ、待って……焦らないで」  照によって露出した僕の中心は、照ほど猛々しくはない。でも、平常時とは完全に違うほど屹立していて、照からの刺激を強く待ち望んでいるような雰囲気を漂わせている。 「ほら、もうちょっと近づいて……」   照はまた、僕の腰を強く引き寄せると、僕と照の中心は、ピタリと寄り添い合うように触れ合った。 「あっ……」  その感触に背筋がゾクッと粟立つのを感じ、僕は慌てて照を見つめた。真正面に来る照の顔には憎らしいほど色気が潜んでいる。僕はその顔がとても好きだと感じ、何故だか泣きたいような幸福感に包まれる。  「摩央も握って……」  照はそう懇願すると、僕の中心を握り、その後すぐ、自分の中心に僕の手を当てがわせた。 「そ、そんな……こんなこと」 「できないって?」  照は意地の悪い笑みを浮かべると、僕の中心をゆっくりと扱き始めた。  「ああっ、て、照っ」  僕たちはお互いの中心を擦り合わせるように掴むと、堰が切れたように快楽のままに扱き始めた。そのうち湿度が増していく二つのそれから、ヌチヌチといやらしい水音が響き始める。 「はあ、はあ、ヤバい……ねえ、摩央……イキそっ……」  照は陶酔し切った顔でそう言うと、僕の頭を引き寄せキスをした。でも、照は僕に対する強い思いを込めるかのように、キスをしたまま瞳を見開き、僕を見つめる。僕はその瞳に込められた照の思いを、逸らさずしっかりと受け止める。  もう少し、あともう少しだけ時間を頂戴……。  僕は心の中で照に伝えたが、照はいきなり僕の鈴口をぐりぐりと親指で弄りながら、更に激しく僕の中心を扱いてくる。 「はっ、て、照! ダメだよ……いっちゃうっ」  僕は、急速に高揚する射精感に焦り、咄嗟に照の肩に顔を埋めた。 「もっと、摩央も、強く扱いて……うっ、気持いいっ」  僕は照に言われた通り、照の中心を強く扱いた。お互いの中心はぬらぬらと艶ややかに光っていて、官能的に躍動しているのが分かる。僕はその光景を素直に美しいと感じ、強い満足感に包まれる。 「ああっ、ダメ……ダメっ」  僕たちは、先走りで濡れたそれを二人で擦り合わせながら、無我夢中で高みへと突き進んだ。   あと少し!……。  その時僕の目の前で光が弾けた。ふっと意識を無くしそうになったが、僕にしな垂れかかってきた照の、その美しい筋肉質な肩がビクビクと震えているのに気づき、ハッと我に返った。 「はあ、はあ、一緒に、いけたな……」 「はあ、はあ、う、ん……いけ、たね……」  僕たちはお互いに見つめ合いながら、脱力したようにおでこを付き合わせると、快感の余韻にしばらく浸り合った……。

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