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ずっと昔の、秋の月夜のお話【読切】

「ルストック、まだ残ってたんだな。もう月が出てるぞ?」 柔らかな声に振り返れば、淡い月の光を背に浴びて、鳥舎の入り口からこちらを見ている金髪の男がいた。 「こいつが甘えたでな。なかなか離してもらえなくて参ってるんだ」 俺は、乗用の鳥の中でも、まだ若い鳥の嘴を撫でながら答える。 幼鳥と呼ばれる時期を脱したばかりの若鳥は、なおも撫でてもらおうと、首の辺りの羽毛をぶわりと膨らませてこちらに訴えていた。 俺が仕方なくその首のもふもふへ腕を突っ込み掻いてやると、レインズが鳥舎の中へ入って来た。 レインズは、俺の鳥を横から撫で回しながら、鳥に話しかける。 「なんだお前ぇー、こんなとこでずーっとルスを一人占めしてたのかぁ?」 レインズが俺の名を短く呼んだので、思わず鳥舎の中を見回してみるが、もう自分達の他には誰も残っていないようだ。 若鳥は、初めこそちょっと迷惑そうな顔をしたが、レインズの撫で方は口調とは裏腹に優しく、すぐにうっとりと目を細めた。 「ほら、俺が構っててやるから、帰り支度して来いよ」 レインズがさらりと告げる。 こいつはいつもそうだ。 なんでもない顔で、まるで自然な事のように、こうやって俺を助けてくれる。 いつまでも撫でてるなんて、と俺の態度に触れる事もなければ、そんな甘えた鳥は……と鳥の性格に触れる事もない。 俺は、こいつのこういうところが、非常に気に入っていた。 「すまんな、レイ。助かる」 嬉しくて、思わず久々にレインズの名を短く呼んでそう告げる。 レインズは、一瞬驚いたように青い瞳を瞬かせ、それから嬉しそうに笑った。 「こんくらい、安いもんだよ」 荷物をまとめて鳥舎に戻れば、一体どれだけ撫でられたのか、羽の流れも美しく整えられてツヤツヤになった若鳥が満足そうな顔をしていた。 「待たせたな」 俺の声に、レインズは振り返って悪戯っぽい顔で笑う。 「おー。今夜はルスの奢りでいいぞ?」 言うと思ったよ。 「もう金がない」 「もう!? お前っ、また隊員達にたかられたのか!?」 「人聞きの悪い事を言うんじゃない」 「いやでもそーなんだろ?」 「……まあ、そうだが……」 「…………はー。しゃーねーなぁ。……じゃあ、今夜は俺が出すから、飲んで帰ろうぜ?」 レインズは大袈裟にため息をついてから、人懐こい笑顔を見せる。 「結局、お前が飲みたいだけなんだろう」 「んなことねーって。大体、俺よりルスの方が沢山飲むだろ?」 「そうか?」 「そーだよ!」 くだらない話をしながら、城の通用門を出る。 こいつとこんな風に肩を並べて帰るのは、もう何度目になるだろうか。数えきれそうもない。 「見ろよルス、月が綺麗だな」 空を指されて顔を上げる。 確かに月は美しく輝いていた。 だが、俺にはそれよりも、隣で金色の髪をキラキラと揺らして笑うこの男の方が、数倍美しく見えた。

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