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『どちらかが十年分の記憶を忘れる薬』を飲まないと出られない部屋(5/7)
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元から可愛い奴だとは思っていたが、初めてのレイは不慣れな仕草が一層初心で愛らしい。
愛を囁けば落涙し、深く口付ければ腰砕け、触れれば触れるだけ甘く喘ぐこの可愛い男を、さあどうしてやろうかと思うだけで、自身ははち切れそうなほど漲った。
俺はこんなにも、どうしようもない男だったのか、と自嘲してしまう程に。
お前の初めての姿を、どうしても見たい。
この目と心に焼き付けておきたい。
もう二度と失わないように。
その欲に任せて、お前を半ば騙すようにしてベッドに誘ってしまった。
それなのにお前は、俺になら何もかも許すと言ってくれるのか。
あの時俺だけが失ってしまったお前の姿を、お前はその献身で、もう一度俺に与えてくれるというのか……。
「レイ……」
耳元で囁けば、レイは熱い息の合間から健気に応えた。
「……っ、……ルス……」
レイの温かな内側から指を引き抜くと、十分に解れたそこへ俺の熱をあてがう。
レイの瞳が不安げに揺れた。
「怖いか?」
あの日、レイは恐怖を感じたのだろうか。
「へ、へーきへーき、大丈夫だって!」
慌ててかぶりを振る様子は、どうもあまり大丈夫そうには見えない。
……そうか、お前は前にも俺のためにその感情を飲み込んでくれたんだな。
「大丈夫だ。今のお前ならな」
俺はなるべく優しく囁いて、ゆっくりレイの内へと侵入する。
あの日はどうだったのか。こいつは俺のために痛みを堪えてくれたんだろうか。
「……ぁ、あ、っ、ぅあ、あ、あああっ」
レイが途切れ途切れに溢す声は、やはり甘く蕩けるような響きで、俺の耳から入り込んで中心へと熱を注ぐ。
レイの記憶では初めてでも、その身体はすっかり俺に馴染んでいて、俺に従順な自分の身体に戸惑う様がどうにもたまらない。
「どうだ? 痛まないな?」
俺の問いに真っ赤な顔のままコクコク頷く男がいじらしく、思わず言わせたくなった。
「俺のモノで感じてるな?」
「っ!」
レイの頬の赤みが耳まで広がる。
頷く事もできずに、伏せた瞳を俺から逸らす姿がどうしようもなく愛らしくて、俺はさらに言葉を重ねる。
「イイ時は、気持ちいいって教えてくれよ?」
レイの青い瞳が動揺に揺れる。
「なっ、なんで、そんな、事……っ」
「言ってくれなきゃ、分からないだろう?」
「そん、な事っ、んんっ、ぅあっ」
入れたまま動きを止めていたモノをゆるりとゆすれば、レイが愛らしく身を捩った。
「ふ、ぅ、あ、あっ、ぅああ……っ」
温かな内側は既に蕩けそうなほどに柔らかく、優しくうねるようにして俺を奥へと誘っている。
誘いに乗りたいのは山々だが、こいつは奥を突くとすぐイッてしまうからな。
最初はもう少し、焦らしてやりたい。
俺はゆっくりと抜き差ししながら、時折レイのイイところを掠める。
「あ、……っ、ん……っっ」
掠める度に、びくりと肩を揺らすレイが、切なげに俺を見上げた。
「ル、ス……。っ、ルスぅ……」
青い宝石のような瞳がじわりと滲んでいる。
「ぁ……、ルス……、俺……っ、ぅ……」
迷いを見せるその姿に頃合いを感じて、俺はレイの好きな場所をぐいと突いてやる。
「あっ、あああっ」
「ここがイイのか? ほら、言ってみろ」
促してから、俺はそこをぐいぐいと押し込む。
「ゃ、あっ、い、イイ……っ、ルスの、あぁああっ、イイ、よ……っっ」
ビクビクと肩を揺らしながら必死で応えるレイに、俺は満たされる。
「レイ……上手に言えたな」
弛む口元に合わせて微笑めば、ホッとした様子を見せたレイが青い瞳から一粒涙を零した。
自身を支えていた腕を縮め、レイの頬に顔を寄せると零れた涙を唇で拭う。
「……そろそろ片足での腕立ても辛くなってきたな」
苦笑してレイの隣へ横たわろうとすると、レイは俺から離れるまいと健気に身を寄せる。
いや、流石に片足の不自由な俺の身体では、お前と繋がったまま体位を変えるのは難しいだろう。
レイは、ずるりと抜け出た刺激に肩を震わせると、濡れた瞳で縋るように俺を見つめた。
「……ぁ……。ルス……」
「別にこれで終わりだとは言ってない。乗ってくれるか?」
俺の言葉に青い瞳がキラリと輝く。
「お、おうっ、任しとけっ」
そんな素直に喜びを見せられては、……たまらないな。
ずくりと脈打つ下腹部は、既に痛いほどに熱を集めている。
「うわ……、ルスの……デカいな」
ぴょこんと俺に跨ったレイは、俺のモノをマジマジと見て、ちょっとだけ引き攣った顔でそう言った。
「今までお前の中に入っていたがな」
「ぅ、そ、そーだよな……」
小さく呻いた男が、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえて苦笑する。
「そう緊張しなくていい」
「こ、これさ、その……俺が、触っていいんだよな?」
「当たり前だろう」と俺は答えてから「まあ、今までお前の中に入っていたがな」ともう一度同じ言葉を口にした。
「いや、ま、そこは気にしてねーんだけどさ、なんか、その……。人のとか、触った事ねーし、本当にいいのかなって……、俺が、ルスに直接、触れても……」
ドキドキという心音がここまで聞こえてきそうな程に、レイは期待と緊張でいっぱいの顔で俺の中心を見つめている。
お前は昨夜も俺のそれに頬を寄せ、愛しげに舌を這わせていたがな。まあ、それは今は言わずにおこう。
しかしそうか。
お前は俺に触れるまで。少なくとも十年前までは、他の者に触れた事は一度も無かったんだな。
「ルスの……」
うっとりと呟いて、レイはそっと俺の先端に触れた。
「お前の中に入れてくれ」
あまり焦らされては萎えてしまうぞ。と言ってしまえば、こいつはきっと慌てて動き出すのだろう。
今回は流石に、レイには怒涛の展開だったろうからな。
この程度、いくらでも待ってやれる。
「……ほんとに……夢じゃないんだよな……?」
俺の輪郭を確かめるように指先でなぞったレイの手の上に、ぱたりと水滴が落ちた。
「おい、泣くんじゃない」
顔を上げたレイの青い瞳は、涙をいっぱいに溜めていた。
「だっ……て、ずっと、こんな日が来たらいいなって、思ってたけどさ。それが、ここまで……急に来るなんて、思わねーしさ……。こ、心の準備とか、なんか、そーゆーのが色々いるだろ!?」
言葉の終わりがヤケクソ気味になっているな。どうやら、レイは既にキャパオーバーなようだ。
これは、下手に時間を与えて落ち着かせようとするより、何も考えられなくする方が良さそうだ。
「ああ、そうだな。性急ですまなかった」
「い、いや、ルスが謝る事じゃねーけどさ……」
俺が謝らないで、誰が謝る。
お前が今テンパってるのは全部、俺が我儘に欲を張ったせいだぞ?
俺は、俺の上に跨ったまま腰を下ろしそうにないレイへ手を伸ばす。
俺の手が届かないことに気づいてか、素直に顔を寄せてくるレイ。
その頬を撫でて、顔の横に流れる金の髪に指を絡めるとゆっくり引き寄せる。
「レイ……」
熱い息と共に囁けば、青い瞳が期待に揺れる。
柔らかく口付ければ、それだけでレイは蕩けそうな表情を見せた。
海よりも青い瞳に溜まった涙を指の腹で拭いながら、俺はその耳元へ強請る。
「お前を全部、俺で埋め尽くしたい」
「……っ」
ああ、俺は目の前で真っ赤に染まるこの男が、愛しくてたまらない。
その身体の隅々まで、心の一欠片まで、全てを食い尽くしてしまいたい程に。
正しい事ではないと分かっているのに。それでも。……こいつが俺を許すから。
甘え過ぎだと分かっていて尚、それを正せない。
『ルスはいつも読みが甘いんだよ』
こいつがよく俺を窘めていた言葉が胸に浮かぶ。
本当に、その通りだ。
……まさか俺が、お前にここまでハマってしまうなんてな。
小さく自嘲した俺に気付く余裕もなく、レイはぎこちなくも懸命に、俺のモノをその内へ導こうとしていた。
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