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叶真の災難3

 次の日、目覚めのアラームはけたたましいチャイムとノック音だった。 「うるせーなー、まじで」  叶真は昨日、どうやって自分の部屋まで戻ったのか記憶にない。記憶にないが、身体の節々が酷く痛んだ。殴られた頬は腫れあがり、赤黒く変色している。口の中はずっと血の味で充満していた。これは当分なにを食べても鉄の味しかしないだろう。  最悪な気分は一晩寝ても解消されることはなかった。引き続き気分は最低だ。来訪者が誰かを考えれば、更に下がるところまで下がる。  叶真はベッドサイドに置いたスマホを見る。時刻は昼をゆうに回っていた。そして着信が四件。相手はやはり恭介だ。 「だろうな。こんな不躾なチャイムとノックの仕方、アイツ以外考えられねぇし」  けたたましい音に叶真は顔をしかめた。  昨夜から連絡を七回無視している。とうとう家にまで来やがったと、叶真はうんざりとため息を吐く。普段は大人ぶっている恭介だが、自分の思い通りにならないとすぐにキレる。行動力がある分とてつもなく厄介だ。  頭が痛い、と叶真はこめかみを抑える。けたたましいチャイムとノック音のせいか、昨日の襲撃のせいか、恭介のせいか。おそらくその全てが原因だろう。  ともかく今はチャイムとノックの音を早く止めたい。恭介のノックは、ノックというより扉への暴力だ。安普請な扉では、そのうち壊されてしまいそうだった。 「今開けるから殴んの止めろっての! どこの取り立て屋だよ、てめぇは!」  部屋の中から外へ向かってそう叫び、玄関先まで大股で向かうと叶真はドアの鍵を外した。それと同時にガッと扉が開く。  扉の先にいたのは昼間の明るさがまるで似合わない男。叶真の予想通りの人物だった。 「俺からの連絡を無視するとは、いい度胸しているじゃないか」  怒気の含んだ声音に叶真は一瞬怯む。だがそれも僅かな時間だけだった。明らかに怒りの感情を剥き出しにしていた恭介が、叶真の姿を目にした途端、スッとそれを治めたのだ。 「お前、どうした。その顔は」  殴られ、腫れて変色した顔は、誰がどう見ても痛々しい。 「うっせえな。てめぇに関係……」  ないだろ、と言いかけてそれを止めた。考えてみれば渦中の原因は恭介だ。 「てめぇのせいだよ! てめぇの!」 「俺の?」  心外だ、と言わんばかりに眉を顰めた恭介に、叶真は昨夜のことを捲し立てた。  背後から不意打ちに合い、殴られ、馬乗りになられたこと。その原因が恭介に相手にされなかった男の逆恨みだということ。あろうことか身体まで狙われ、犯されそうになったこと。全く自分には否がなかったことを、噛みつかんばかりに畳み掛けた。

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