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初恋

「次はどこかな〜」  車に戻って、朝から飲んでいたコーラをやっと飲み干す。  稜はこんなドライブが楽しくて仕方なかった。 「ここからは少し長く車に乗ることになりそうだけど、大丈夫かな。2時間前後くらいだけど」 「大丈夫だよ。あ、でも自販機とかあったら、水が欲しいかも。何かあったら止まってね」 「わかった。じゃあ行こう」  車はずいぶんな山道を走っている。 「これから峠を越えて日光に向かうよ。途中なんかお店とかあるみたいだけど、こんな山道だとほんとかなって思うね」  窓の外は、さっき滝で見た新緑がいっぱいだった。 「なんか、普段僕たちって何見てるんだろうって思うよね。きっと身近にもこんな綺麗な緑色あるんだろうな」  外を眺めて、稜が呟く。 「そうだね。まあ賑やかなところに住んでいると、目の前のことに忙殺されちゃうからね。これからは少し気付けるんじゃないか?」 「そうだね。気をつけて見るようにしないとだね。あ、そうだ。マカロン食べなきゃ」  胸元のサコッシュから、2個入りのマカロンの箱を取り出して開ける姿を見て 「花より団子っていう姿そのものだな」  と、また稜の好きな笑みで司は笑った。 「だって、そろそろ食べないとさ」  黄色のレモン味と、ピンクのクランベリー味 「どっちがいい?」 「稜が好きなの選んで余った方でいいよ」  そう言われて、じっとマカロンを見つめる。 「司はやらしいからピンクだね。はいどうぞ」 「理由が酷くないか?」  声をあげて笑って、はいありがとうと言って受け取ってくれた。  黄色いレモン味のマカロンを食べながら、稜は思った。 『初恋とかファーストキスがレモン味って言う人いるけど…もっともっと美味しいよな…』  初恋と思ってみて一瞬心臓が高鳴り、チラッと司を見てみる。  二口目で全部口に入れた瞬間目があって、稜は目を逸らした。  既にアイスコーヒーの朝のコーヒーをこちらも飲み干して、 「何可愛いことしてんの」  と頭をぐりぐりされる。 「やーめて」  手を退けて、ハンドルへ戻す。 「片手運転ダメ」 ーその代わりー と言いながら、司の太ももの上に手を置いた。 『初恋なのか…僕にとって…』 「稜?そこはダメ」  苦笑して稜の手の下から自分の手を差し込んで、恋人握りをする。 「え、なんで?触ってたい…」 「まだまっすぐな道だから、こうしてても平気。手をつないでよ」 ーきついカーブとかの時、急に手離すけどその時はごめんねー    と、指をにぎにぎした。  じっと握られた手を見て、稜はへへっと笑う。  握った手の上にもう片方を重ねて、へへっとまた笑って、ちょっと気味悪いと司に言われ 「酷くない?」  と騒ぐ。  車は中禅寺湖を眺められる道を走り、天気もいいのも手伝って湖面も静かに陽の光を受けている。 「日光は、遠足で来たんだよね。ここもスワンボート乗ったなぁ」  湖を眺めて、懐かしそうに呟いた。 「僕さ、小学校の時めっちゃ背が低くてね、まあ今でもそんなに大きくは無いけど、それで友達とスワンボート乗ったんだけどあれって足漕ぎでしょ?僕の足が座ってるとペダルに届かなくてさ」  そこまで行っておかしそうに笑う。 「え、まじで?そんなにちっこかったの?何年生?」 「5年生の時。130cmしかなかったからね」 「かっわいー」 「でね、あのペダル隣と連動してるから友達が漕げば進むんだけど、頼ってばかりも悪いし、って思ったんだろうね、僕床に座って足で漕いだの」  もう、今考えるとおかしすぎる、と笑い出した。 「景色なんて全然みえなかったよ」 「なんだか想像できるわ、稜って結構律儀そうだしな」  司も笑ってしまって、スピードがちょっと落ちた。 「小さい頃って、一生懸命馬鹿なことするよね」 「その一生懸命さがまた可愛いんだけどな」  日光では、予約してあったホテルのテラスで食事をした。 「こんな食事緊張するよ〜」  最初はそんなことを言っていたが、何かとそう言う機会もあったのか、年齢なりのマナーで十分乗り切り、司を感心させる。 「ご両親は、そういうのきちんとされてるんだね」  正式なコースでもないし、服装も自由な程度の食事だったが、カトラリーの使い方は必要だったから、それはやっていてよかったなと思った。 「司と一緒にいると、もっとすごいとこ連れていかれそう。僕はサイゼリヤでも全然いいんだからね」 「俺が嫌だよ」  そう笑われて、それもそっか、と稜も笑ってワイングラスの水を傾ける。 「これからさ、温泉行かないか?日帰り温泉あるんだけど」  きっとこの人何の気なしに言ってると思うけど…流石に今は…まだ裸のお付き合いは無理…まだそれは恥ずかしいかも… 「え…いや、僕は…」 「あ、嫌かな。じゃあ止めとこう。稜が嫌なことはしないことにする」 「ごめんね。おじさんは温泉入りたかったよね?」 「そうそう、おじさんは『純粋に』温泉に浸かりたかっただけ」 「そこ強調するとうっそくさ」  飲みかけた水を吹き出す前に止めて、笑わせないで、と抗議  なんてやってると、パチパチと音を立てて花火が弾けるプレートが運ばれてきて。 「え?え?」  と思ってるうちに、そのプレートは稜の前に置かれ、プレートの淵に HAPPY BIRHDAY RYOH  と書かれていた。 「お誕生日おめでとう御座います」  ギャルソンがそう言ってくれて、周りからも拍手が送られた。  どうしていいかわからなくて、司の顔を見たり、周りに会釈したり、稜はちょっとキョドッてしまう。 「誕生日おめでとう」  司はそう言いながら、稜の前に小さな箱を置いた。 「え、これ…」 「プレゼント」  頬杖をついて、にこっと微笑みながらー開けてみてーと言う  開けてみると、イヤーカフだった。しかもダイヤ…?が埋め込まれていた。 「何がいいかなと思ったんだけど。ピアスってわけにも行かないし、ネックレスもね…。それならさ、俺と会う時だけでもつけてもらえるかなって思って」 「つけてみてもいい?」 「もちろん」  稜は取り出して、左耳に挟んでみた。 「純金だから、締めるの簡単だけど、締めすぎると痛いから気をつけて」  純金!? 「ねえ…僕には不相応じゃない?このダイヤも本物?」 「メレだから大したことないよ。ちゃんと年齢を考えてる。それに金属アレルギーあるかわからなかったからね。とりあえず間違い無いでしょ純金なら」  稜のストレートな黒髪に金色が映える。 「うん、似合う。可愛い」  ニンマリして、司は自分のデザートを食べ始め、稜もイヤーカフをつけたまま花火の消えたデザートを食べ始めた。  3つの小さな三角ケーキに、イチゴのアイス。が乗っている。 「美味しい」  嬉しいがいっぱい重なって、稜の笑顔が最高だった。    車に戻り、取り敢えず軽くキス。 「司、ありがとう。こんな嬉しい誕生日初めてだよ」  キスにももうだいぶ慣れて、普通に受けてくれるようになった。 「喜んでもらえたならよかったよ。それ似合ってる」  耳に触れて、ついでにほっぺにちゅ 「さて、これからはもう俺のプランは無しだ。本当につらつらと、見かけたところにより込む形式で行こうか」 「うん。それもしたかったし。あ、でも東照宮は行かなくてもいいよ。3回も行ったから」  まあ、学校関係で通る道よね。 「わかった。じゃあ出ようか」  車が発進して、ナビを確認すると司が 「あー、いろは坂行かなきゃなんだった。稜って酔いやすい?」 「僕は大丈夫だよ。いろは坂も何度か通ったけど平気だったし」  ならいいか、と道なりに進むが 「気分が悪くなったら言いなよ?止まるからさ」 「わかった」  そう言いながらも、自販機で買った水とさっきのホテルで見かけたチョコレートを食べている。ー大丈夫そうだなー  稜を確認して、車はいろは坂へ差し掛かっていった。 「しまった!華厳滝見忘れた!」  そういえば…と稜も気づき 「もう過ぎちゃったの?」 「はるか後ろです…」  ちょっとがっかり…と司はしょぼくれる。 「華厳滝の前でちゅーしようと思ってたのに!」  何を言うんだこの人…とちょっと引き気味に司を見るが、今日はいっぱいしようって言ってたからなー次はどこでするんだろ、などとちょっと期待なんかもし始めていた。 「華厳滝ってさ、写真撮ると100パー写るんだってね…」 「あ、霊?そうなんだってね。俺には写ったことないけどね」  きっと見えていないだけなんじゃないのかな…と思ってみるが、自分の撮った写真にもいなかったと思うと、やっぱりみる人しか見えないものなんだなと思う。…ことにする。 「稜は霊とか信じてるんだ?」 「ん〜いるって言う証明も、いないって言う証明もできないからね…」 「その年齢で弁護士みたいな言い方するなぁ」 ーえ?そう?ーと本人は気づいてないようだ。  まあ子供は、親の口調や話し方が移るものだからきっと一緒に暮らしている間にそういう思考や話し方が身についてしまったのだろう。 「俺は嫌いじゃないけどね。論理的思考と解釈」  可愛げがないだけでしょーと呟くと 「そんだけ見た目が可愛ければじゅうぶん」  司はどうも自分を過大評価しすぎる。ずっと可愛いとか言われると、余計自信なくなる… 「途中に何かあるとは思えない道なんだよね。取り敢えずまっすぐ宇都宮まで出ちゃおうか。餃子でも食べる?」 「あ、有名なんでしょ?僕食べたことないんだよね、行こう行こう!」 「でも、餃子食べたらちゅうが…」 「もう!司そればっかり!一緒に食べれば大丈夫でしょ!?」  嗜められるのかと思ったら… 「そう言うところ大好きだよ、稜の」  声を出して笑って、じゃ餃子行こう!とスピードをあげた    宇都宮を出たのがもう既に4時過ぎていた。  インターチェンジに入り東北道を上ってゆく。 「餃子美味しかったね。いろんな味があって面白いし」 「そうだな、機会あったらまた来よう。全部制覇したい」  餃子好きなのが、ちょっと可愛く思える。 「さて、あとは帰るだけだね。時間もちょうどいいし」  今から帰れば、待ち合わせの例の公園前に着くのは早ければ6時には着けそうだ。「親御さん心配するから早めに帰さないとな。そうしないと次がなくなる可能性もでてくるから」  でしょ?と笑って稜を見ると、なんだかちょっと寂しそうな顔をしている。 「なんでそんな顔してんの。会う気になればまた明日にでも会えるんだから」  また頭をグリグリしてみたが今度は止められなかった。 「めっちゃ楽しかった…また連れてってね、いろんな所」 「勿論だよ。こう言うドライブいいだろ?」 「うん。それに誕生日の全部もありがと」 「おいおい、まだ2.3時間あるんだから、まだ締めないで」  笑ってもう1グリしてから手を離す。  「そんな寂しがってもらえて、ちょっと嬉しいよ」  少し真顔で司は言う。 「まだ会ってから半月程度だけど、こう言うのって時間じゃないなって思う。大事にしないとな、稜のこと」  よそ見運転は怖いけど、ちょっと目があってから稜は、自ら少しだけシートベルトを外してほっぺにちゅをしにいった。  そしてすぐにシートベルトをする(律儀) 「稜からしてもらえて嬉しい」  ほっぺを撫でて、今日は顔洗わないとか言っている司にーお風呂入ってねーと告げて、ちょっとだけ笑った。 「僕も、今日色々気付けた。司と同じ。まだ会って間もないとか、そういうことでまだ好きになるには早いって思い込んでて…でも僕は司のことが好きだし、これは本当なんだって気づいた。初恋って言い方恥ずかしいけど…きっとこれが僕の初恋なんだ…こんなにときめいたこと今までにない…」  司がアクセルを踏み込んでスピードをあげた。 「次のSAでもPAでも入る。抱きしめたい」  すぐにあったのは大谷PA。SAよりも多分だが人は少なそう。そう言うところがいい。  大谷PAに入って一番奥の、人が来なそうなところ…いやもう人いたって構わない辺りに停めてシートベルトを外し、稜のも外し引き寄せて抱きしめた。  抱きしめたいと言われてから数十分間、一言も話さない司に驚き、稜もどうしていいかわからずにずっと俯いていたのだ。  抱きしめられて、ほっとした。 「まだ…こんな華奢なんだな…本当大事にしなきゃなあ、俺」  ぎゅっと抱きしめられて、稜は司の腕を掴む。 「稜、初恋まで俺が貰っちゃっていいの?」  稜は顔が埋もれた司の肩でうなづいた。 「司がいい…」  その言葉にもう堪らなくなり、司は今迄になく強く唇を合わせ、そして誘うように唇を舐める。  それが意味することは流石の稜もわかっていた。  恐々と自らの舌を出して、司の舌に触れる。  初めて味わう感触だが、甘美な感覚を腰に感じ舌に触れたくて唇を自らも合わせていった。  鼻呼吸の音だけが車内に響き、時折濡れた音が混じるがそれ以外はずっと唇を求め合った。  それ以上のことがしたい司には辛いが、今はまだその時期じゃない。こんなキスを受けてくれただけで大感謝だ。  稜の頬に手を当てて、 「大事にするって言ったばかりなのにごめんな…怖いか?」 「怖くないよ…司だもん」 「ほんとはさ、このキス…今日の最後にしようと思って取っておいたんだけど…」  と、歯を見せて笑う。 「やっぱ我慢の効かない大人だった、俺」  そう言って再び唇を合わせ、舌を貪る。  舌を絡めている最中は、稜の頭の中はもう霞みがかっていて何も考えていられないほどだ。  司との初めてがいっぱいの日だった。こんなに幸せだと思ったのも人生初で、求めることも求められることも幸せだった。  これ以上のことがあるのもわかっているが、そうなった時これ以上の幸せを感じるのかな…と今から楽しみになる。  息が切れるほど長くキスをして、漸く2人が満足いくほど触れ合えた。  司は断ち切るようにドアを開けて、ーちょっとトイレー と笑ってトイレに向かう。  その理由なんかわかっていた。稜も半分反応したが、少しすれば治るかなという感じだったから、そのままゆったりとシートに寄りかかる。  唇に触れて、思い出す。  本当に司が好きだな… 一方司は、まっすぐに個室へ入り、もうガン勃ちのペニスを取り出し擦り始める。 「…可愛すぎる…あんな小僧にこんなに気持ち持ってかれるなんて…まだ中学生だぞ…なんだあの色気…はぁ…愛おしいなぁ」  手の動きは徐々に早くなってゆき… 「来年まで我慢できるのか俺…」  もうオナニーではなかった。腰を揺らして仮想で稜を犯している。  経験がある分稜より辛い。 「あ…あぁ…」  いつもよりも早く達することは気にせず、手の中へと全てを収めた。  車に戻ると、稜は寝てしまっていた。 「可愛い寝顔して…襲っちゃうぞ」  ほっぺたをぷにぷにっとして、シートへ着く。  あと2時間もないうちに着くな、と時計を確認してエンジンをかけた。  あんな顔されて、あんなこと言われ理性が吹っ飛んでしまったのは反省。もう少し自重の心を養おう、と心に決めた。

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