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2人の居場所

 公園の前に着いたのは6時15分だった。まあまあな時間 「稜、着いたぞ」  肩を揺らして揺さぶると、黒い髪が揺れて顔にかかる。  あああほんとにかわいいなぁ…唇にかるうくちゅうっとして、 「ほら、起きなさい」  と、ほっぺをムニムニ。   「あ、僕寝ちゃってた…ここどこ?」 「いつもの公園前」 ーえ、着いちゃったの?ー  慌てて起き上がって車外を見ると、確かにいつも見慣れた公園前だった。 「起こしてよ〜〜。司と話しして帰りたかったよ〜〜」  半ば駄々をこねるように口を尖らせるが、自分にかかっているものに気付き 「あ、掛けてくれたの?ありがとう」  司の上着がかかっていて、きっとその香りに安心して熟睡しちゃったのだろう。  でも 「今日が終わっちゃったな…」  車から降りたくないそぶりで、シートの上で体を滑らせる。 「俺だって寂しいけどね。またすぐに会えるでしょ?」 ーそうだけどぉ〜ー 「稜?」 「ん?」 「おいで」  司が両手を広げて微笑んでいた。  ここはハッテン場公園前。  2人が車内で何をしようと咎める人はいないのだ。  稜はシートベルトを外して、司に抱きついた。 「楽しかったよ。ありがとう。また遊ぼうね」 「うん、すぐにでも企画する」   司は稜を引き上げて自分の上に座らせ、そして顔を見合わせてキスをする。  さっきとは違う優しいキス。舌も絡めるけど、優しく蠢いて気持ち良さに稜の口の端から声が漏れた。 「いい声出すんだな」  唇を離して頬にキスをし、上着代わりのシャツを少し肌けさせて鎖骨のあたりを軽く吸う。  その行為にまた稜から声が漏れるが、 「そのいい声は、まだまだ取っておいてよ」  と言いながらスマホで稜の鎖骨の画像を撮り、本人に見せた。  痛いとは感じなかったが、結構綺麗な色でキスマークが付いている。  稜はその跡に指を這わせて、嬉しそうにまた抱き付いた。 「それでしばらく我慢できるかな。俺もこの画像見て我慢する」  連休明けに、ほぼ1週間出張があるとは前々から聞いていたために、平日には会えないのだ。 「来週の火曜日だな。またあの店に行こう」  まるまる1週間空くことは今までなかったから、稜は寂しそうに寄りかかる。 「これ、1週間も持たないでしょ?」  キスマークに触れて、司の顔をみた。 「ん、1週間は無理かなぁ。でも消えた頃会えるよ」 「うん」  もう一度キスをして、稜は司から降りていく。 「ところで、ここからどうやって帰るんだ?徒歩?」 「ううん、バスに乗って、15ふn」 「おいおいおい、送るって〜。何言ってんの車あるのに」 「え?」 「家教えたくなければ、近くまでだっていいから送るよ。何遠慮してんの。じゃ、はい、シートベルトして」  なんとなく、お別れチックな雰囲気を醸してたのにやり直し。 「台無し」  おかしくて2人して笑ってしまった。  家の近くだと何かと不都合だからと、もう一度舌を絡ませあって、車は発進する。  20分程度だったが、帰り道を少し取り戻せたと笑って稜は車を降りた。 「本当ありがとう。たのしかった。また来週ね」  運転席の窓から手を握り合って、バイバイする。 「お互い1週間がんばろう」  一度ぎゅっと握って手を離した。  去ってゆく車にのテールランプを、角を曲がるまで見つめていた稜は ランプが5回点滅したのを確認する。 「ん?」  とは思ったが、どうしたのかな、くらいで見送ってしまった。  若すぎて通じなかった「未来予想図II」 司残念。 「この部屋は?」  火曜日に会った時、待ち合わせの場所から喫茶店には寄らずに司の車でとあるマンションへと連れてこられた。  1LDKの間取りだが、LDKが広くリビングの右手側のドアがもう一つの部屋へ入るところだろう。 「ここさ、最初は1人の部屋が欲しくて用意したんだけど、あまり使っていなくてね。分譲で買っちゃったもんだから、売るのも面倒で放っておいたんだけど、稜と会うときにいつも喫茶店もあれだなと思って、ここをね」  立派な部屋だった。  キッチンもとりあえず必要なものも揃ってる風だが、稜にはまだそこはよくわからない。  でも綺麗になってるし。あのドアの向こうはきっと寝室なんだろうなとも想像がつく。 「いい部屋だね。ここ使っていいの?2人で使うの?」 「まあ、外で会うのもいいけどさ、こういうところがあると落ち着くじゃん」  昨日出張から帰ってから、ここ少し掃除したと笑ってキッチンへ向かい、揃えたのであろう飲み物をなにがいい?と冷蔵庫の中を見せてきた。 「自由に使ってね。冷蔵庫バンバン使っていいし、勉強集中したい時だって使っていいよ、あ、そうだこれ、鍵」  一枚のカードを渡してくれた。カードキーだ。 「これって、じゃらじゃら持つより楽でいいでしょ。お財布にでも入れておいて」  言いながら、稜が手を伸ばしかけていたコーラを取ってこれも手渡す。 「今日みたいな平日は時間少ないけど、土日のどっちかはここで過ごせるから、気が楽だね」  リビングには割と大きめなテーブルが置かれており、ノルウェーあたりの柄のラグの上に直に座る感じだ。  ソファとかもめんどくさかった、と言って、稜を呼んでテーブルに飲み物を置いた。 「こうやって、密着もできるしさ…外で会うより絶対いい」  肩を抱き寄せて頬ずりをする。確かに司にいつでも触れられるな…とほっぺたむにっとされながら考えた。 「稜は今年受験生だろ?だから夏休みまでにいっぱい遊んどこうと思っててね」  受験生の夏休みは夏期講習やら、強化講習やらがあるのはわかっている。  平日か土日にしか会えないし、これからは土日も模試や何らかの試験が入ってくる。定期テストもある事だし。  その隙をついて会うのも、ここが一番だ。 「勉強も見てやれるよ〜。おれ犀星のOBだし〜」 「え、ほんとに?」 「うんうん。だからコツとか教えてあげる」  なんか心強い。よろしくお願いしますと大袈裟に頭を下げて司に笑われた。  受験はちょっと気持ち落ちるけど、でも司がそばにいてくれると本当に心強い。 「でもあれだよ。成績落ちたら絶対俺のせいなんだからさ、それはやめてな。テストの結果は俺にも見せてください」 「え…下がったらどう…」 「1週間会いません」  キッパリすっぱり言ってくる司にーええ〜〜ーと泣き言のような声をあげる。 「下がんなければいいんだから。そうすればさ」  顔をあげてちゅ 「いっぱいキスできる」  再び重なって、舌を絡めるキス 「ん…わかった…」  少しとろんとして、もう一回といいながら体を伸ばしてキスをせがむ。その体を受け止めて、抱きしめ深く長いキスが始まった。 「こういうこともいっぱいできる。ちゅ。好きでしょ?んちゅ」 「司とするキスが好き。ちゅ」  相変わらず可愛いことを言ってくる。1週間ぶりのキスは、前よりも甘くて美味しい。 「あ、そーうだ。試験の日程とか模試の日程とか、今わかるものだけ教えといてね。稜の邪魔したくないからさ」 「え、今?キスしてる今??」 「そう、今。だって俺たちきっと…ずうっとイチャイチャしてると思うよ?」  顔の間近でそう言われ、稜もー確かにーと妙に納得してしまう。  今日も学校帰りだったため、カバンからファイルを取り出して、日程表を司に見せた。  司は定期試験の日程と、英検漢検その他模試等のテストの日もスマホのスケジュールに入れておく。                          「これに関して俺から何も言わないけど、稜が駄目って言ったら納得できるからな」  果たして稜はダメというのか… なんにせよ、自分のせいで稜の将来が危ぶまれるようなのも困るのは事実だった。  ともあれ、1週間会えなかった2人は、稜が司の膝に乗ったまま時々ちゅ、などしながら、出張先の話や稜に起こったちょっと面白いことなどを話してその日は終わった。

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