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もっと心躍る、喜びに満ちた歌をともに歌おう 6

 僕は奏にほうじ茶を、自分にコーヒーを淹れた。猫舌の奏はカップ半分のお茶に自分の加減で水を足して飲んだ。僕は朝はコーヒー派だが、奏は飲めない。これは長期戦だと思ってこないだオタク用、じゃなかったお得用袋のティーパックを新しく買い足したばかりでまだだいぶ余っているがどうしようーーいや、僕が飲めばいい話なんだけどさ。ノンカフェインという訳ではないようだが身体には優しいだろうし。 「駅まで送ってやろうか」  どうせ暇なのでそう申し出た。地方都市の例に漏れず車社会のため公共交通の便は悪い。曲がりなりにも県庁所在地なので電車はそこまででもないが、アパートから10分ほど歩けばバス停に出られ、1時間に1、2回の便に乗れば20分ほどで駅に行けるーーというのは、地方都市にしてはずいぶんと恵まれている方だ。 「ナオ君、サンキュ。助かる!」  奏は小さな頃と全然変わらない、底意も媚びも全くない純度100%の笑顔を見せた。  車で15分ほどの駅に奏を送り届けてふと、思い出した。 「一旦戻って来る気なのかな?」  奏の部屋ーー元彼のいた部屋には、季節変わりに姉から送ってもらったりしてじわじわと増えた荷物がまだそのままだ。 「『スーツ取ってくる』って言ってたけど……こっちで就活する気なのかな?」  まさかな。そんな話は何も聞いていない。「叔父が住んでいる」ってだけで元々彼とは縁もゆかりもない土地だし、僕にしたって「諸事情で仮住まいが長くなった」くらいの感覚で消去法でここにいるだけで、骨を埋める覚悟も何もない。  内陸だから気温差も酷いし冬は空っ風、夏は全国ニュースになるほどの猛暑と雷だ。気候変動とやらが進んでからは特に酷い。季節の変わり目には下手すると車のフロントガラスが割れるくらいの大きな(ひょう)が降るーー被弾して死人が出てないのが不思議なくらいだ。  せめて老後は生まれ育った街とは言わないが、もっと人に優しくサスティナブルな場所で過ごしたい。  そう言えばタイミング悪く、元彼と一緒に借りたアパートがそろそろ更新時期を迎える。姉は毎月、家賃の半分と奏の食費に相当する額を少し多めに振り込んでくれてはいるが、奏が転がり込んでこなければ早々に一人用の物件に引っ越すつもりだった。  隣県の幹線沿いほど便はよろしくないが、同じ首都圏内だし日帰りで行き来できない距離ではないものの、姉は思う事あってかわざわざ会いには来ない。が、一度相談してみようとは思う。  傍目からは過保護だと思われるか、放置し過ぎだと思われるかわからないが、これでも姉が長年の格闘の末にたどり着いた「奏マニュアル」あるいは「奏ちゃん憲法」のお陰で奏は優しく面白い奏のまま、たとえサポートを得ながらであってももうすぐ、どうにか自立できそうなところまで成長した。  奏が僕を慕ってくれるのも僕が「努力は必ず報われる」的なスポ根式価値観とは間逆の人間であるからだろう。奏のような子にはどうも、奇跡と不屈の人、ヘレン・ケラーを育てたサリバン先生式の訓練は向かないように思う。

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