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心の友とか神推し 1
Wem der große Wurf gelungen,
Eines Freundes Freund zu sein,
Wer ein holdes Weib errungen,
Mische seinen Jubel ein!
(一生もんの心の友とか神推しに出会えて、
「尊い、死ねる」と思った人は
いいからここでウザく語ってけ!)
唯人さん。ついに五月が来た(げっそり)
若々しい命が輝く最も美しい季節に僕は、全く進まない断捨離をしたり、奏に飯を食わせたり足になったり、送った履歴書に一つも返事がなくて落ち込んだりしているうちに連休が終わってしまった。いや、普段の生活がずっと連休みたいなもんなんだけどさ。
「叔父貴」
おじき……Ojiki?
「どうした。Vシネの見過ぎか、新しいギャグか」
「ナオ君、金貸してくれ」
奏が真顔で頭を下げた。こんな事を言って来るのは初めてだ。
「すまん、今月マジで金がない。五百円貯金でいいか」
僕はカウンターの隅に書いてある菓子缶を開けたーーが、百円玉と十円玉一枚ずつしか入ってなかった。
「……これ、貯金箱の意味あんの?」
奏が冷静に突っ込んだ。
唯人さんがいた時はこの缶が空になった事なんかなかったのに。五百円に限らず、財布に小銭が溜まって邪魔な時や逆に要る時に、お互いドンブリ状態で入れたり出したりしてた……いや、二人とも働いてたからだよな。
世のキャッシュレス化の流れには逆行するが、抽象的な概念の苦手な奏は金銭感覚を養うため、僕も最近は家計管理のために目に見える現金払い生活だ。
「金おろしてくる……幾ら要るの?」
僕は一応、財布をのぞいた。今夜の軍資金としてどうにか生き残らせた福澤諭吉翁と野口英世博士が若干名鎮座している。
「いや。家に帰るからSuicaチャージしようと思って。昼飯買わなきゃ多分片道だけは何とかなる」
奏は「一応貸してくれ」と言って缶の中の110円を受け取った。
「米は炊いてあるからおにぎり握ってやろうか」
「やった、助かる」
奏は味覚に過敏で、小さい頃から好き嫌いが多い。特に野菜が苦手で、姉は何とかビタミンを摂らせたいし慣れさせたい一心で卵焼きやハンバーグやミートボールにせっせとみじん切りの野菜をあれこれ混ぜていたら、メニューごと苦手になったという筋金入りだ。
「野菜がどうっていうより、色んな食材の食感が混ざってるのが気持ち悪いんだよね。味が混ざるのも気持ち悪いし」
というのは成長して語彙が増え、自己分析ができるようになった頃の本人の弁だ。そういえばこの子、触感も敏感だから気に入った服はとことん着倒すが、似たような素材と見た目の物でも繊維の風合い一つで袖も通さない事がある。枕はカバー付きで持ち歩いてるし、服を買ってくると真っ先に襟タグを切る。姉がもっと早く、当時の彼の言葉で気持ちを聞き出せていたら無駄な労力を裂かずに済んだのかもしれない。
ただ、あながち無駄とも言い切れない。成長するにつれ、本人も「好きなものだけ食べていると栄養学上も社会通念的にも色々まずい」と自覚したらしく、好き嫌いは若干改善されつつある。
とは言ってもオムライスとハンバーグが好物のリストに復活し、シンプルな茹で野菜や生野菜サラダが若干食べられるようになった程度だが、それだって大した進歩だ。
食事を外で食べたり買ったりする場合も好物は上州名物・鳥飯弁当とかソースかつ丼、あるいはチャーシュー麺のように、肉がらみの一点豪華主義の物なら好物だ。
何が入ってるかわかりやすい物なら美味しく食べられるが、新製品のシャッフルやマイナーチェンジが多いコンビニ弁当や幕の内的なメニューの多い駅弁は、どこに地雷が潜んでいるかわからず苦手らしい。
フリースクールと大学の昼食ももっぱらおにぎり専門で梅おかか、昆布、塩鮭か焼きたらこのローテーションだったという。
サービスのつもりで唐揚げやシーチキンを入れたら「ご飯が油っぽくなるから嫌」と言われ、おかず類も「容器に入れると蓋につく水滴が嫌」だそうでつけてなかったとか。
それでよくここまでデカくなったもんだ。お残しは許されないどころか、現代栄養学と三角食べの申し子であるはずの僕がいつの間にかあっさり背丈を抜かれているし……何だか理不尽だ。まあ、姉が家での食事をあれこれ工夫した賜物なんだろうけど。
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