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心の友とか神推し 2
「家に行ったら、ハハに早めに金入れてくれって言っとくわ」
「悪いな。叔父さん、仕事が決まるよう頑張るよ」
これではどちらが面倒を見られているのかわからない。
「そんなに決まらないもんなの?ニュースだと労働力不足だって言ってるけど」
「そうだよなあ。まあ、いつかは決まるだろう。奏は自分の事を頑張れ」
「はーい」
ハロワ通いを始めた時は「ナオ君も就活生とかウケる」なんて憎まれ口をきいた奏だが(いや、冷やかしじゃなくて素直な感想だったのかもしれない)サポートしてやってるつもりがいつの間にか、こちらが支えられているみたい。世代的には親子ほど離れてるんだけど戦友のような同士のような不思議な感覚だ。
あの、生まれたての時はほわほわ、ふにゃふにゃしていて、大きくなったらなったで走り回っては泣き喚いてばかりいた奏がねえ……
生きててよかった、と久しぶりにちょっとだけ思えた。
「今夜は向こうに泊まるんだろ?」
「いや。明日バイトだからこっち帰ってくる」
「そうか。僕は夜出かけてるから。この家と自分の家の鍵を必ず待って出るように」
「あ」
奏は自分の部屋に戻った。鍵が無いと自分の家にも入れない事を、また忘れていたらしい。
「今夜、なんかあるの?」
早速おにぎり作成に取り掛かった僕に、戻って来た奏が聞いた。唯人がいて前の職場に勤めていた頃ならともかく、飲み会や残業があるわけでもない。奏がここに来てから夜の時間に外出するのは初めてだ。
「うん。この前話した第九の合唱団に……」
「Die駆の呀衝弾?」
「ほら、年末によく流れてる……」
僕は鼻歌で説明した。音程がイマイチ怪しいが。
「あ。エヴァのBGMだ」
「エヴァ?」
「エヴァ」こと「新世紀エヴァンゲリオン」ーー1995年放送開始のテレビシリーズと劇場版で当時の10代を中心に熱狂的な支持を獲得、社会現象化した。「クールジャパン」にも繋がる第三次アニメブームのきっかけであり、メディアミックスや「セカイ系」作品のはしりともされる金字塔的作品。
その後リブートとして制作された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」四部作はIT社会とも親和しつつ世代や国境を超えた新たなファンを獲得し続け、完結編「シン・エヴァンゲリオン劇場版(※末尾に音楽記号のリピート)」公開時は新型コロナウィルスのパンデミック下でありながら、同年延期開催された「東京オリンピック2020」にも匹敵する大きな話題となった。「国民的アニメ」でもあると言えよう。
……が、僕はギリギリまだ「機動戦士ガンダム」世代だったりする。
「あれっ、そうだったっけ?マジで?」
「うん。ナオ君、テレビに出んの?」
「いや、僕が行くところは出ない」
「ふうん。まあ頑張って。おにぎりの具、何?」
「おかかとふりかけ」
「やった。おかか久しぶり」
奏が保温ご飯とあり物のおにぎりをあんまり喜ぶので、心底申し訳ないような気がした。
出し渋ってしまった諭吉と英世は一年分ーー正確に言うと一シーズン七ヶ月分だがーーの合唱団の先払いの団費と楽譜代だ。
やっぱり入るのやめようか、いや、せっかくだから様子だけでも……電話応対してくれた人にも悪いし、などと考えているうちに時間になったので、ハローワークのついでに奏を乗せて出掛けた。
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