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心の友とか神推し 3

 という訳で、唯人さん。  いい歳した大きな大人の泣き言を、少し聞いてもらってもいいかな?  仕事に関しては、努力してない訳ではない。定期的にハローワークに行っているし、求人雑誌にも毎月目を通している。  これでも、メジャーリーガーを養成しない星一徹みたいな親父に育てられ、若い頃は職人気質の集団就職世代に散々鍛えられた昭和の男だ。諦めず、真面目にコツコツが取り得……と思ってたのに、すぐに心がポッキリ折れた。  企業研究だ自己分析だと重いコンダーラを散々引いて、OBOG訪問だオヤカクだと周りまで巻き込んでまでせっかく入った職場を、あっさり早期離職してしまう今どきの若者を笑えない。  多少苦戦するのも年収のダウンも覚悟していたが、事務職での正規採用は諦めた方がいいのかもしれないーー  いや、そういう事じゃないんだ。  まず、相談窓口に行く。自分より若く生気に満ちた、もし親と同年齢で子どもが生まれていたとしたらきっと同世代であろう担当者に色々と聞かれる。受け答えがあまりに事務的なのも同情混じりなのもどちらも辛い。  前職がややマイナーな業種の、研究職とも事務職ともつかない中途半端な仕事でそこから説明するのがややこしい。しどろもどろになって自己嫌悪の沼に沈む。  僕が得たのはその業界における勤続年数の長さと「明日役に立」ちそうにないニッチな知識と事務処理能力だけで、一般社会の大多数が求める資格もスキルも全く持ち合わせていない現実を目の当たりにする。 「研究職とまでは言わないが、事務職希望で接客と営業は無理」というこちらの切実な希望に対して理路整然とごく正論なアドバイスをもらい、妥協と妥協と妥協の末に出した十数枚の履歴書にはどれも返事すらない。  一社だけ返事が来て面接に行ったら、これも当然なんだが自分より若い管理職にハローワークよりさらに厳しいダメ出しを真顔でされた挙げ句に「お祈り」されてしまった。 「僕が挙動不審のダメ中年で、何かアンタに迷惑かけたか?余計なお世話だ」  くらいの捨て台詞、どうせ落とされるとわかってたら吐いてくればよかった。相対的弱者って辛い。いや、わかっててもヘタレ度の絶対値だけは神レベルの僕だから、どうせモゴモゴ、モヤモヤと尻尾を巻いて終わりだったかもしれないけどさ。  最初の日に僕と同じように求職中の人達をこっそり観察してみると、僕より年代が上の男性がゾロゾロいて 「うわっ、これが世に聞く『年金支給までの食い繋ぎ』か。厳しいな」「『最後の一人まで』『百年安心の年金プラン』どこ行った!」  などと他人の要らん心配をしたり、 「若い人もいるけど、僕はこの中だとまだ中くらいの年代かな。まだ五十前だから、中途採用で何とか行けるんじゃないか」  と、根拠もなく楽観的になったりしたが、通っているうちに段々、頭頂部の寂しい総白髪の彼らが自分と同年代であり、自分も元々少ないパイに掃いて捨てるほど群がる「めっちゃ多数派」の一人に過ぎない事がわかってきて、一気に悲観的になった。  いや、そんな事は言っていられない。生活がかかっているんだし、奏の手前もある。いくら辛くてもいい大人なんだから頑張らなきゃ。 ーーと、自分に言い聞かせてはみても、辛さの種類が全く違う。諦めずに努力すればするほど自分が傷ついて惨めになるだけで、努力の先にあるべき明るい明日も不安のない未来も、向こうからは全然近づいて来てはくれない。奏には悪いが、叔父さんは早くも現実逃避したくなってきた  昔「ロングバケーション」というドラマがあったよね。主演のキムタクくらい若くていい男だったらしばしの無職生活もサマになり、かつ人生の糧にもなり得るのだろうか。パパになろうがジジになろうが歳をとろうが、見た目も生き方も様になってカッコいい人というのはいるのだろうけど。  僕は駄目だ。

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