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SDGsでいこう 2

 配食サービスの事業所は会社の本社とも店舗とも別に郊外に新しく建てられた、倉庫と車庫と事務所からなるだだっ広い建物だ。僕は七時出社で午前の便の担当をする事になった。  絵に描いたような昭和式育児法の両親に穴ともども、日曜祝日お構いなしに「早寝早起き&家族揃ってご飯」を厳しく叩き込まれたせいか、受験生になっても大学生になっても夜遅くまで起きているのが苦手で、飲み会では二次会に連れて行かれる度に寝ていたし、受験勉強も卒論も朝型でこなしていた。  代わりに朝の家事も早朝のバイトもそれほど苦にならないし、道も空いている。こればかりは両親と、その僕ですら根を上げるほどやたら早起きだった子ども時代の奏に感謝だーーちなみに今は見る影もないが。  出社するとタイムカードを押し、目に刺さりそうなビタミン&企業カラーの真新しいユニフォームに着替える。ミーティングと規定の点検事項を終え、業務用のバンに食材を積み込む。  早番組の僕らを仕切っているのは石井さんという中間管理職のベテラン事務員だ。 「藤崎さん。これ、要るかしら」  肩までの明るいパーマヘアにブランドロゴのピアス、派手色の事務服に負けないカラフルな化粧。誰の人生のどんな場所にも一人はいそうな、若作りのオバ……いや、年齢不詳の元気な女性だ。  地図サイトからプリントアウトした市街地図にカラーペン数色で詳細な目印などを書き加えた、僕の配達地域の曜日ごとの順路図を手渡された。 「わあ、すごく見やすいです。助かります」  僕は頭を下げた。 「そう?よかった。若い子なんて『配送アプリあるんで要らないっす』とか『カーナビついてんのに意味分かりません』なんて笑うのよ」  命知らずな奴だな。若い奴はそうなんだろうけどーーいや、この組、デジタルネイティブとかそこまで若い奴いなかったと思う。 「僕は、地図は紙の方が頭に入りすいです」  確かに配達車には3Dのカーナビやらドライブレコーダーやらが搭載されているし、元職場でも端末での管理がメインだったけど、地図に関してだけは紙の図面で、自分で情報を取捨選択しながら俯瞰の全体図を頭に入れた方が楽だ。 「そう言ってもらえると作ったかいあったわあ」  石井さんは大きな口を開けて豪快に笑った。  未経験の仕事なので仕事内容もそうだが、人間関係が心配だった。蓋を開けてみると、同じシフトのドライバー同士はミーティングが済むとどんどん配達に出てしまう。配達終了次第それぞれ帰ってしまうから、色々気を使わずに済むから楽だ。 「おい、藤崎。出られるか」 「あ、はい。今行きます」  今週一杯は早朝番の班の仕切り役でもある、一番ベテランの配達員(といっても年齢は僕とあまり変わらないらしいのだが)についてもらって配送先と仕事を覚える。来週からは自分一人で回る。  唯一マメにコミュニケーションを取らなければいけないのが石井さんなのだが、見た目によらず性格は温厚で、新米ヌケ作オッサン配達員の僕に根気強くいろいろ教えてくれる先輩共々、バカみたいな凡ミスも嫌な顔一つせずにフォローしてくれる。  ただ、僕に当然のようにタメ口きいてくるので最初は同い年か数歳上だろうと推測してこちらは敬語を使っているのだが最近、石井さんの方が下手すると年下かもしれないってことに気づいてモヤモヤしている。確かに僕の方が新人なのだが、僕より下の世代の若い子達ーーもとい、かつて「若い子」だった人達はどうも「年上には敬語」という意識が薄いような気がする。  どちらにしても恐ろしくて実際の歳なんて聞けない。社運を賭けた新部署に少数精鋭で抜擢されただけのことはあって優秀な人だ。あまり迷惑をかけないようまくやっていきたい。

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