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星空の上にきっと神様はいらっしゃる……1

 Über Sternen muß er wohnen.  唯人さん。  関東は梅雨入り宣言されてから猛暑日がきたり、空梅雨のような変な天気とゲリラ雷雨が繰り返し続いている。明けたら「猛暑日」と「酷暑日」のシークエンスだろうな。これ以上温暖化とヒートアイランド化が進んだら、なんて名前をつけるんだろう。 「なでしこジャパン」「侍ジャパン」系も「桜ジャパン」まで出てきていよいよネタ切れかと思ったら「フェアリージャパン」「マーメイドジャパン」「スマイルジャパン」……意外と枯渇しないから、大丈夫なのかな。  それより、今に北海道も梅雨や台風と無縁じゃなくなるのかもしれないね。  仕事も生活も順調だ。僕は時給が上がったし、奏は短期のバイトと就活を掛け持ちしながら行ったり来たりしている。  いつものように事務所でのミーティング後、積み込み作業をしていると石井さんが新しい配達票を渡しに来た。 「新しい配達先は二件。どちらも独居の方ね。見守りサービス希望のモニター様への声かけは必ず」 「わかりました」  なんと、チギラさんにヒントをもらった「見守りとちょっとお手伝いつきコース」というのが新設された。今はモニター対象に試験営業中だ。 「でも、見守り研修ったって救命講習と簡単な説明を受けただけなんですが」  石井さんはけろっと言った。 「配達に行ったら倒れてた、なんてことそうそうあるわけないわ。万一の時は臨機応変でよろしく」 「え……、」  五十年も生きていて「臨機応変」という指示が未だに苦手だ。だからケースごとに詳しく指示してもらいたいのに……  僕の時給が上がったのはこのサービス導入のお陰でもあるし、いざって時、ちゃんと役に立たなきゃと思ってるだけなのに。 「万一何かあったら119番すりゃいいんスよ」  僕より若い同僚がフォローしてくれた。サービス開始時から勤めている僕よりもベテランだ。 「それよりこのサービス、石井さんの企画って事で彼女、昇給したそうですよ。アイディア出したの藤崎さんなのにいいんスか」  彼は声を落としてひそひそささやいた。 「アイディアってほどじゃ……」  思いつきっぱなし、言いっぱなしじゃなくて企画書書いたりプレゼンしたりしたのが彼女なら、それは彼女の業績だ。ただ、提案した時、微妙に塩対応だったのはモニョってるけど。 「それにしても、俺らの仕事が増えてるってことは、やっぱり多いんスかね。高齢独居の方」 「そうみたいですね」  同じ独居でも女性は悠々自適の生活を三食の支度に追われたくない、と自分で申し込んでくる人が多く、男性の場合は離れて暮らす子世代が申し込んで来る場合が多いという。 「心配してくれるお子さんがいるだけいいですよ。最近は離婚も多いし、これからは未婚のまま年を取る人が増えるんじゃないですか」 「ご飯を作ってくれた母親が亡くなったから」という理由で申し込む人も中にはいる。  申し込み理由は必須では無いが、電話申し込みの時に周囲の人には話せない家庭事情や愚痴をついでにひとしきり吐き出していく人も時々いるらしい。僕にはちょっと理解できない感覚だ。  自分もいつか世話になるかもしれないし、働いている間にもっと使いやすいサービスにできたらいいな。   配達ルートの旧国道沿いのビル街は高度成長期だバブルだと脳天気にただただ前を向いていた時代の匂いがする。つかの間の青空が広がり、AMラジオから流れてくる六十年代ジャズや昭和歌謡、ポールモーリアーー時が止まりかけたようなノリのベタな老舗系情報番組がよく似合うし嫌いじゃない。 「夫に先立たれた妻は長生きし、妻に先立たれた夫はその逆だと言いますが」  ちょうどラジオのパーソナリティが葉書を読み始めたーーおいおい、いきなり世知辛いな。ラジオよお前もか。 「最近、友人のお連れ合いのお悔やみが続きまして……」  僕は若者向けの深夜放送を聞いていた世代だが(朝型人間にはかなりの苦行だがクラスの話題に乗り遅れることも死活問題だ)最近のラジオは僕ら以上の世代のリスナーからのお頼りが多い。奏の世代はラジオよりもテレビよりもまずネット動画なんだから無理もないか。  僕は信号待ちの間にラジオを切り、カーステレオ用のスペースに滑り止め付きのスマホを置いてパート練習用の音源データを再生した。合唱団手製のパート練習用CDを斎木さんに売りつけられたので音源をスマホに入れてすきま時間に独習する事にした。  昔は部活の先輩や友人たちに「ダビング職人」とか「エアチェックの鬼」なんて呼ばれていた僕もサブスクの波には乗り切れてない。  今日も夏日の予報が出ていて郊外のバイパスを行き交う車の八割ほどが窓を閉め切ってエアコンをかけている。僕は逆に運転席の窓を全開にして初夏の風を楽しみながら個人練習だ。いい気分で歌っていると反対車線で右折停止していたオープンカーの運転手と目が合ってくすりと笑われ……いいや、気のせいだいっ!

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