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共に生きよう 2

「大型二輪って自動車とか普通二輪の免許持ってなくていきなり取れるもんなの?」 「うん。学科試験が免除にならないってだけだから、教習で学科取ればいいって」 「なるほどなあ」  背負()うた奏に教えられ……勉強になった。 「奏は大型バイクに乗りたいの?」 「わからん」  そんなきっぱり言い切られても……まあ、ちょっとは格好いいって思ってるのかな。全然やる気がなきゃすぐ断ってるだろうし。 「免許とるにはお金もそれなりにかかる。友達がやるから僕も、ってもんではないような気がするぞ。就活やインターンだってそうじゃない?説明会でそう言われなかった?」  奏は頷いた。 「僕には乗り物に乗りたくて乗る、という奴の気持ちがあんまりわからないんだけど……バイク免許持っててペーパーだって奴はあんまり見た事ないから、好きで乗りたいって奴だけが取るんじゃないかな。実技の一限目は、250キロあるバイクを自分一人で持ち上げて起こすんだって聞いた事がある」 「250!えっ、そうなんだ?」  奏はちょっと驚いたようだった。 「そりゃそうだろ。チャリだって道でコケた時、自分で起こせなきゃ家に帰れないだろ」  そして少し考え込んでいた。 「奏がどうしてもバイク好きでそれがやりたいっていうなら僕も応援するけどさーーお金以外はね。どうして行こうと思ったの?」 「だってナオ君、免許持ってたお陰で就職決まったって、前に言ってたから」  ……奏なりに気にしてたのか。鼻の奥がちょっと痛くなった。 「僕が持ってたのは車の普通免許で、車を運転する仕事だったからだよ。それ以外の仕事だったら、りれ……エントリーシートの資格欄が空欄にならないってだけの事だと思うよ。会社が都内なら車通勤もしないだろうし」  とも、言い切れないか。あと一人落とすって時に同じようなスペックの二人が残った場合、忍耐力とか完遂力の指標くらいにはなるのかもしれない。 「わかった。やっぱ断っとく。ありがとう」  奏はパッと顔を明るくして、憑き物が落ちたみたいにどこかへ出かけて行った。  後になって、その友達に普免コースに変更できないか聞いてねじ込んじゃえばよかった、これじゃ姉に怒られる……と後悔したが後の祭りだ。  ところで例のアカリちゃん騒動の後、チギラさんからお礼の電話が来ていた。ついでにこんなお知らせも。 「ところで急なんですが来月、新団員の歓迎会を開く事になりました。団のホームページにお知らせを載せて、練習でも呼びかける予定なんですが、新団員の方には手分けして連絡する事になって。日にちは……」 「ああ、そうなんですね」  斎木さんの言ってたアレか。8月の頭……まあ暑気払いも兼ねて、ギリギリ新歓感あるか。 「お店が混んでる時期なのに、よく場所が取れましたね」 「いえ、それがやっぱり取れなくて。それでダイネ・ツァオベルでポットラック・パーティーをやる事になりました」 「本当ですか?」  思わず声を立てて笑った。あのダイネ・ツァオベルで第九のメンバーが持ち寄りパーティ……斎木さんかチギラさんか、誰のアイディアかはわからないが予想のはるか斜め上ってやつだ。 「ああもちろん、新団員の方は手ぶらで来てください。「持ち寄り」の方は我々が担当します。ただし、参加費は新団員さんも実費のワリカンなのですが……」  僕は俄然興味が湧いた。お店での歓迎会より安く済みそうだし、ワリカンなら気楽に参加できる。何よりチギラさんと飲み会なんて楽しそうだ。多少、ヤミ鍋感も無くはないが。 「俺も、今考えてる子ども食堂用のメニューをいくつか出そうと思ってて。ご家族の方もぜひ」 「えっ、だって団員全員で200人くらいいるんじゃないんですか?」  あの結団式の日に集まっていたのは、金管アンサンブル目的の人や賑やかしのOB・OGもいたようで、12月の舞台を目指しているのは今のところ、200人弱のようだ。ダイネ・ツァオベルは確かに元カフェだしチギラさんが子ども食堂を発案するだけあって、団体客に対応できなくはないが、さすがにそれだけの人数が入れるとは思えない。  

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