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共に生きよう 7

 軍資金を得た奏は立ち上がり「電機屋行ってくらあ」と店を出た(後日聞いたら、若干上乗せしてもらった上、修理キット代まで出してもらったらしい)  余興はアコーディオン演奏に変わっていて、店内は「うたごえ喫茶」状態になっていた。先生はリーダー役としてテーブル席に引き戻され、アカリちゃんは知っている歌らしく一緒に歌っていたが、女の子二人は耳をふさいでゲラゲラ笑っている。 「この前はアカリがたいへんお世話になりました」  腹拵えの済んだチギラさんは深々と頭を下げた。 「いいえそんな。あれはたまたまっていうか……」  その後の災難も、今日の歓迎会のご馳走とコーヒーできっとお釣りが来る。 「あの子が奏君?大きいんですね」  子育て世代の「お子さん大きいですね」とは「長い長い育児のマラソンを完走した先人への羨望と感嘆と畏敬の念」が少なからず含まれている。  僕は「ええまあ」と姉のふんどしで相撲をとりつつ胸を張った。久々の斜め上っぷりを見た奏の後ろ姿が何だか大きく見えた。 「今年大学三年でね、就活中なんですよ。本当は今年、四年で内定もらってていいはずなんですが寄り道してて」 「そうなんですか。今、何でもかんでも早くて大変ですよね」  僕もチギラさんに同意だ。 「でもきっと自分らしい道を見つけるはずですよ。変な話、今回の件だって道中大変だったら、ズルしてミネラルウォーター入れちゃえとか、バックれちゃえとか考える子だって世の中にはいると思うんです。でも、なんでだろ。奏くんなら大丈夫だと俺は思えたんですよね……初対面なのに」  チギラさんにそう言ってもらえたのが嬉しかった。一筋縄じゃいかなくても、奏には奏に合う道がある、絶対大丈夫だと確信できた。 「ありがとうございます」  僕はこないだから気になっていた事を聞いてみようかどうしようか、迷っていた。  アカリちゃんが迷子になった経緯は、近くの店に行っていて目を離した隙に外に……という事だったと後で花田さんや斎木さんから聞いた。第九のロビーや練習中は待っていられたのに……と不思議に思ったが、誰でも予想外の行動はあり得る。当のアカリちゃんが無事だったのだし、本人はその時も迷子の自覚はなく元気で楽しそうにいている。それはそれで蒸し返さなくてもいいと思った。一番心配して自分を責めていたのはチギラさんだろうし。 「練習……」「え?」 「あ、いえ。チギラさん、しばらく練習休んでましたよね」  僕は懸命に明るくさりげなく、しかし歌声に負けないよう声を張り上げて聞いた。 「お仕事、忙しかったんですか?」  と、チギラさんはふっと疲れ切ったような暗い顔をして頷いたきり、下を向いて黙り込んでしまった。思わぬ沈黙に何かまずいことを言ってしまったのかと焦った。何か違う話題にすればよかったがすぐには挽回の方法を思いつかない。 「夏休み前くらいからアカリが、学校に行き渋るようになって」  チギラさんは吹っ切れたように顔を上げると、怒りのイケボで語り始めた。 「ええ?それは大変でしたね」  長期の休み明けに子どもが不登校になりやすい、という話は聞いている。奏が生まれたあたりから学校は週休二日制となり、さらに「ゆとり教育の見直し」とやらが始まった。それで休み時間を減らしてまで行事の練習や色んな活動を平日に詰め込むようになったーーと聞く。  始業式も終業式も関係なく、幼児に近い一年生まで一律きっちり五時間目六時間目まで学校に縛られる。その過密さたるや昭和の土曜半ドンの体罰つき詰め込み管理教育で育った僕でさえ同情できるほどである。ランドセルは軽くなったが教科書は大きく重く、夏には熱中症予防の水筒までぶら下げて通学しなくてはならない。  遊ぶ時間も場所も少ない上にIT教育やら英語やら……子どもは暴動起こしていいんじゃないかな。 「今の小中学生が大変そうなのは僕にもわかりますよ。アカリちゃんのせいじゃない」 「そう言ってもらえると安心します」  チギラさんの口調が柔らかくなった。 「何か学校でトラブルでも……?いじめとか」

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