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きっと見守っている 12

  普段の練習の十倍は疲れ果てていた。  しかも今日は、普段休みがちな人も何とか都合をつけて出てくるため、僕が集合時間より前に到着した時にはいつもの駐車場は一杯で、少し離れたところにある第二駐車場の方に車を停めていた。  チギラさんはあの後、先生方に労われたり団員達に絶賛されたりしながら引っ張り凧だった。あんな才能に恵まれて人に慕われる人が、僕のような陰キャ&モブ属性のオッサンになんで構ってくれようとしたんだろう。 「スナオさん」  チギラさんが息を切らして駐車場に追いかけて来たので驚いた。他に人はいず、車も数台だけしか残っていなかった。 「お疲れ様でした。いつぞやはすみません」 「……」  あの素晴らしいバリトンソロの感動をできたら伝えたかったのに、先に謝られてしまった。 「いや、チギラさんは何も悪くないでしょう」 「いいえ。あんな丁寧な長文のお返事のSNSもらったのに返信できなくて」  僕はあれから悩みに悩んで深夜、親しくできるのは嬉しいし、アカリちゃんの事で力になりたいが「ナオ君」と呼んでもらうわけにはいかないその理由をーー唯人さんとの経緯を正直に書いて送ったのだ。わかりやすく簡潔にと心掛けたのに、昔懐かし某掲示板でもエラーで弾かれそうなほどの長文になってしまったのは認める。 「ただ、あれ、俺の人生でもらった史上、一番長いメッセージだったので、何というか打ちのめされててて……確認しますが、怒ってたわけではないんですよね?」 「ないです!ないです!わあ!こちらこそウザいオヤジでホントすみません」  僕は黄昏れ続けているチギラさんに謝り倒した。 「スナオさん、優しいから俺のこと、傷つけないように丁寧に説明してくれたんですよね。余計立ち直れないです」  チギラさんが今まで見せた事のない表情を見せたのではっと胸をつかれた。  そうかやっぱり僕、口説かれていたのか(現実感なし) 「スナオさん、一つだけ約束してください」  チギラさんはそう言うと、すっと小指を差し出した。 「もし、唯人さんがどうしても忘れられなくても、追いかけて行く時は、俺に黙って行かないで下さいね」  僕は頷きながらつい、自分の人差し指くらいありそうな、形のいい小指に見惚れて凝視していた。 「指切り」「あっ、はい」  いい年してゆびきりげんまん……なんて大真面目にやるのは気恥ずかしかったが、このくらいは応えないと申し訳ないと思った。 「嘘ついたら……そうだな」  暗い街灯に照らされながら彼が浮かべた笑顔はーー今まで日向の丸太やクレヨンがとても似合う無垢な人だとばかり思ってたのにーー凄艶という表現からぴったりだった。 「何でも言うこと聞くってどうですか?」 「小学生じゃあるまいし!」  いくら推しでもこれ以上、踏み込んで欲しくない柔らかい場所というのがある。 「大人だからもっとエグい事かもしれませんよ?」 「あなたがそんな事言うなんて」 「嘘つかなきゃいいんですよ」 「……」  僕は今、この人がもし歌手の道を進んでいて、美しきメフィストフェレスを演じていた平行世界をきっと見たのだ。  かと思うと、ケロリとした顔で 「チケット売れそうなんですか」  なんて聞いてくる。 「えっ」 「いえ、受付で斎木さんや花田さんに相談していたのを聞いてしまって」

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