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第12話*

 寝間に吊った蚊帳の内側で、布団はいつも通りにぴたりとくっつけられていた。  夕食のコロッケは肉屋で買ったが、わざわざ揚げ直して熱いものを食べさせてくれたし、風呂も一緒に入って、互いの背中も流し合った。 「でも、あれはまだ怒ってるな……。顔も強張っていたし、口数も少なかった」 白帆が隣の部屋でヘチマ水やバニシングクリームを使って肌を整えている間、舟而は布団に仰向けに寝て、白帆が丁寧に繕った蚊帳の破れ目の跡を見上げつつ、思案する。 「今更、なかったことにもできないし、許しを乞うくらいしか……。着物か、三つ揃いかな。ああ、紺色の三つ揃いがいいかも知れない。イタリーの生地で仕立てたら、白帆の白い肌にもよく似合うだろう。靴はわざと茶色を履かせてみるのも面白い。……でも、白帆が好きな縞の着物も。玉縞なんか着せたら粋で似合うだろうな」 買い物の目的を忘れて、人形の衣服を着せ替えて遊ぶような楽しさで想像を巡らせていたら、襖が開いた。  蚊帳の中へ入ってくる寝間着姿の白帆の右手には、何か光るものが見えた。  白帆は黒髪をさらりと揺らし、切れ長の目を細める。 「お覚悟なさいまし」 「南無三」 白帆は舟而の枕元に正座すると、ぎらりと光る物を舟而の眼前に突き出した。 「ご覧なさいまし。当代一の色男の顔にございます」 それは銀細工を施した白帆の手鏡で、今は舟而の顔が映っていた。 「よくよく鏡の中のお顔をご覧ください。これが先生のお顔です。先生はこういうお顔をなさってらっしゃるんです」 「ああ、うん」 「周りが逆上せるのは仕方ありませんから、あとは先生のお気持ち一つです」 「う、うーん?」 「後生ですから、私以外の人が逆上せても、構わないでくださいまし」 「お前さんは、僕に逆上せているのかい?」 「もちろんでございましょ! 月を見ても、朝顔を見ても、私はいつだって先生のことを……っ」  その声は涙で上擦り始め、舟而は慌てて起き上がって白帆を抱き締めた。 「ごめん。お前さんを泣かせるつもりはなかった。過去は変えられないが、お前さんと出会ってからは、僕はお前さん一筋だ」 「わかってます。…………でも、でも、びっくりしちまったんです。何となくそうかも知れないって思っているのと、実際にそうだったと話に聞くのでは、雲泥の差でした」 すん、すん、と洟を啜って肩をしゃくりあげる白帆の黒髪に、舟而は頬を擦りつけた。 「ああ、ごめん。僕が悪かった。泣かないでくれ、僕はお前さんに泣かれると弱いんだ」  真珠色の頬を滑る涙を唇で吸い、黒髪を撫で、背中を擦り、顔を覗き込み、頬を親指で拭って、また胸に抱いた。 「私があと十年早く生まれていたら、生まれるなり先生のところへ馳せ参じて、ずっとずっとお側に……」  舟而は白帆をさらにきつく抱いた。 「そんな無茶を言わなくても、僕が死ぬまでの時間は、全部お前さんのものだよ。お前さんが喜んでくれるかどうかはわからないけど」 「先生っ!」 倒れ込んできた白帆の寝間着の膝が割れて、真珠色の内腿が舟而の目に飛び込んでき、布団の上に投げ出されていた銀細工の手鏡を見た。 「おいで、白帆」 舟而は白帆の寝間着の裾を捲り上げ、下帯を除けて、荒っぽく香油をまぶした自分の屹立の上へ座らせた。 「ひやあっ!」 衝撃に白帆はきつく目を閉じて天井を振り仰いだ。 「離れているから心配になるんだ。ほら、見てご覧。こんなにしっかりつながっている」 舟而は二人の繋ぎ目を手鏡で映した。白帆の蕾は目一杯開かれて、張りつめた舟而の身体が根元まで埋もれていた。 「見えるかい、白帆。僕たちはこんなにしっかりしているじゃないか。何も不安に思うことはないし、怖がることもないんだ」 「あっ、はあんっ」 白帆は顎を上げ、目を閉じて身体を震わせていた。 「見なさい、白帆」  先生のように厳しい口調で促すと、ようやく白帆は俯いた。 「わかるかい」 「は、はい……。恥ずかしいっ」 顔を背けようとするのを、手で頭を掴んでしっかり見せながら、繋ぎ目を揺らした。 「はっ、ああっ。先生……っ」 「僕とお前さんは、一蓮托生なんだろう? お前さんが言い出したんじゃないか」 白帆は自らも腰を揺らし、赤い口を薄く開いて呼吸を荒げて、切なげな顔をしながら鏡を見ていた。 「ンっ、はあっ。……私、先生と一緒にいるんですね」  白帆の粘膜が蠢き、舟而に絡みについた。 「ああ。僕はお前さんのものだ。もっともっと飲み込んでおくれ」 舟而は白帆を抱え、一層心地よい場所を探りながら腰を揺らし、探り当ててからは本能のままに身体を揺すり、繋ぎ目から全身へ駆け巡る甘い快楽に呻いて、目を閉じて白帆の肩に額を押しつけた。 「ああ、お前さんに溺れてしまいそうだよ」 「溺れてくださいっ、ほかの人なんか見ないで」 「当たり前だろう」 舟而は片頬を上げると、白帆の中へ思いの丈を放った。  強く突き上げられて、白帆もまた意識を白い闇に中へ投じた。  白帆は頬に黒髪を貼り付け、赤い唇を薄く開けて眠っていた。  舟而は同じ枕にそっと頭を乗せると、手鏡で二人の顔を映してみた。 「うん。なかなか似合いの二人じゃないか」

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