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第16話*

「私には、会社の演出部や脚本部の偉い方と掛け合う力はござんせんけど」  布団に仰向けに寝ている舟而の枕元で横座りをして、白帆は舟而の顔を見下ろす。  まだ湿り気の残る黒髪がはらりと揺れた。 「口添えも、助太刀も? 僕がアテ書きした役を演りたいと名乗り出てはくれないのかい?」 舟而は猫をあやすように、白帆の顎の下を指の先でくすぐった。白帆は肩を竦めて切れ長な目を細める。 「それは、もちろんさせていただきます。先生のホンは演じたいですもの。『お願いします、このお役を私に演らせてください』と、方々へお手紙を差し上げたり、直接お願いに上がったりするのは、当たり前のことでございます」 「ならば僕は、やはり自分を白帆に差し出すよ」 「さよですか? 私、ここのところ、すこぅしばかし先生に飢えておりますので、差し出されたら、頂いてしまいますけれども」 ふふっと笑って、赤い唇をくるりと舌で舐めた。舟而は背筋に震えが上るのを感じた。 「お前さんの好きなように料ってくれ」 「承知いたしました」  寝間の明かりを消し、枕元の電気スタンドを灯す。部屋の中は丸く照らされ、四隅は闇に沈んで、二人は見つめ合った。  白帆は舟而の視線を自分の瞳に惹きつけたまま、ゆっくりと舟而の身体の上に跨る。 「なんて整ったお顔立ちをなさっているんでしょう。……そして皆、この目にやられちまうんです。罪な方ですね」 白帆は切れ長な目を細め、細い指先で舟而の頬から顎の線をすうっと辿る。舟而はゆっくり目を眇めた。 「ねえ先生、この世だって地獄でございます。どうぞ観に来るお客様方が、この世の憂さをいっとき忘れることができるホンを書いて、私に演じさせてくださいまし」  舟而の顔の脇に両手を、腰の左右に膝をついて、白帆はゆっくり顔を下ろした。  額が触れ合う近さで、互いの吐く息を吸いながら、相手の唇へ目を落とす。  ほんの僅かな身じろぎだけで、二人は次にすべきことを了解し、ゆっくりと唇を重ねた。  白帆の舌がするりと滑り込んで来る。舟而が舐めるとその舌は逃げて、追いかけて白帆の口の中へ舌を差し込むと、前歯で噛んで捕らえられた。そのまま舌を舐め回され、ぎゅっと吸われる。 「ん……」 「たんと気持ちよくなってくださいましね」 口を離した白帆は、舟而の耳に粘っこい吐息と共にそう囁いて、やわらかく耳朶を食み、赤い唇を首筋から鎖骨へゆっくり這わせる。  その間に舟而の寝間着の胸元ははだけられて、露わになった胸の粒を白帆は小鳥のように啄み始めた。  舟而は腹に小さく力がこもるような甘い刺激を、目を閉じて味わった。 「先生の身体は甘いです……」 白帆は舟而の肌から衣類を取り去りながら、全身余すところなく唇を押しつける。柔らかな唇が揺れる場所から、次々と花開くように喜びが広がっていく。  それは舟而の内腿から左右の足の間の虚栄と羞恥が集まる場所へも同じで、つぶさに唇を触れさせ、ついぞ舟而の変化に舌を這わせた。 「うわ……っ」 根元から先端へ何度も舐め上げられて、舟而の眉間に力がこもったとき、先端を口に含まれた。  熱く湿った粘膜に包まれて、自然に顎が上がる。蠢く舌に呼吸が乱れ、舟而は白帆の黒髪に手を差し入れた。  さらにぬるぬると香油を塗り付けて、茎も双玉も両手で撫でまわされては溜まらない。 「白帆っ、もう、来てくれ……」 「ふふっ、頂戴いたします」 白帆は真珠色の顔に赤い唇でくっきりした笑みを見せると、一気に自分の身体から衣類を取り去って、舟而の腰に跨った。 「はっ、ああン……っ」  舟而の屹立に手を添えて、白帆はゆっくり腰を落としていく。根元まで飲み込むと、舟而と目を合わせながら、左右の膝を大きく開いた。 「白帆……っ」 「お恥ずかしゅうございます。忘れてくださいまし」 白帆は呟くようにそう言うと、手を後ろについて、上下に腰を動かす。 「忘れろって……、無理だろう」 白帆の大胆で明らかな裸体に、舟而の興奮は増すばかりで、瞬きする時間も惜しんでじろじろと見た。 「んっ、擦れて……、いい気持ちです……っ。ああっ、ああ、擦りつけちまう……」  内壁のふくらみを舟而の屹立へ押し付けて、茶臼を挽くように腰を回す。ぐるりぐるりと根元から揺さぶられて、舟而も下腹部に熱が溜まる。 「ああ、白帆。きれいだ」 白帆は真珠色の肌を朱に染め、硬く胸の粒を尖らせ、舟而に向けて膝を開き、何もかもをあからさまにしながら、無心に腰を擦りつけていた。電気スタンドの明かりに浮かぶ身体には汗がきらめく。 「あああ、ああああっ」 身体の揺れと同時に声を上げ続けている。脚の間では白帆の雄蕊が跳ねまわり、その下には、てらてらと光る舟而の雄蕊が、白帆の身体を貫く様子がはっきりと見えていて、舟而も一緒になって呻いた。 「う……っ、白帆」  白帆は苦しそうな声を出す。 「せん、せ……っ、気を遣ってしまいそうです」 「僕もだ……っ。一緒にいかせてくれ!」 舟而は堪らず、白帆の細い腰を掴んで揺さぶり、同時に下から突き上げた。 「きゃっ!」 白帆は小さく悲鳴を上げ、舟而の手に自分の手を重ねながら、天井を仰いだ。 「白帆っ!」  苦しい、苦しい、苦しい。  酸素は足りず、心臓は早鐘を打ち、身体の筋は強張ってくる。  それでも欲望は膨らみ続けて、白帆は舟而の腰の上で飛び跳ねながら、黒髪を左右に振り乱し、天井を仰ぎ、舟而の手を握って俯いて、また空気を求めて天井を振り仰いだ。 「ああ、ンっ、あああ、先生っ!」 白帆の身体が硬直し、舟而の雄蕊も締め上げた。 「はあっ、しらほっ」 舟而の熱の塊も爆ぜて、白帆の中へ粘液を送り込んだ。放出するたびに甘美な快楽が身体を突き抜けて行った。  部屋の中には、しばらくの間、二人の乱れた呼吸だけが繰り返されて、倒れ込んで来る白帆を受け止めると、早い鼓動が伝わってきた。 「はあっ、はあっ……。はあ……」  白帆は舟而の顔の両脇に手をつくと、身体を少し持ち上げてから、改めてぐっと顔を近づけて、赤い唇を左右へきゅうっと引き上げ、目を細めて言った。 「今宵も、美味しゅうございました」  白帆の黒髪がさらりとこぼれ、二人の顔の周りを覆った。

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