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勝手な言い分

 梗介の眼のいろをとらえようと見据えても、むしろそこに、まだ見ぬ得体の()れない感情が浮かぶのが、実は僕は、怖かったのかも知れない。  だが、見据えた。それを隠すように。隠して、僕のおさない『感情の理』をぶつけることを、僕は選んだ。   「柚弥君って、本当は、見た目よりずっと……。  もっともっと綺麗な心、隠してますよね……」 「……」 「知ってます、昨日今日知り合ったばかりです。僕なんか何も解ってないです! 知ってます。でも、そんな僕でも、僕ですら感じたんです、 姿を否定してる訳じゃない。あれだってきっと、だ。 でも、それをすることによって、柚弥君は本当に、いないのかって、僕は思ったんです……!」 「……」 「どうしてそういうことするのかって、それも聞きました……」 「何て、言ったと思いますか……?」  とらえようと臆しながら追い続ける梗介の眼は、僅かにほそめられた気もしたが、何も変わらない。 「別に理由なんかない。ただ、『好き』だからって……。だけど、だけどその後……」  言いながら、それを吐き出している時の、身内に青白い炎を抱えて耐えるように『笑って』いた柚弥の横顔を思い出し、その火のあつさを想って、僕も心が痛んだ。 「自分なんか何もない。からっぽだ。体を開いてる相手はそうじゃない、ただ薄汚くてくだらないのは、 自分だって……」 「……」 「何か、"叫んでる"みたいでした……」 「…………どう思います……?」 「……」 「違いますよね……」 「柚弥君は、薄汚くなんかないです。それを言ったら、誰だって薄汚いです。は。 ……随分()れた風に装ってますけど、本当に数日ですけど、隣になって、普通に良くしてくれましたし、……それは確かに凄く綺麗な子で惹かれるに違いないし、僕には見せてない面きっと、いっぱいあると思います……。 だけど、それを抜いても、そうであっても、普通に笑って、表裏なく色んな感情見せて素直だし、純粋に、これからも友達になれたらいいって、本当にそう思えるような子だったんです……っ」 「……」 「正直、驚きはしました。だから問い詰めるような真似、しました。だけどそれでかえって、判ったんです。 僕が問い詰めて、きっと柚弥君を傷つけました。自分のそんな部分、……深くしまってる部分とか、本当は語りたくなかったと思います。 ……申し訳なかった。そう思えました。そう思える反応だったんです。 さっき言ったみたいに、この子は、柚弥君は、自分とは『普通の友達』になれないだろうって、僕のこと遠ざけようとしてましたけど、それだけで終わりに出来ない、何か、そのままにしておくなんか到底出来ない、凄く重たい抱えてるんじゃないかって、そう思えてならないんです」 「……」 「……すみません。一方的なことばかり。全部、僕の勝手な言い分です。勝手な言い分だから、言わせて貰います……。 僕は、ただ昨日隣になっただけの、柚弥君にとって、何ともない存在です。隣になっただけで、これからは、これからも表面上はのクラスメイトとして、何事もなく接していくんだと思います。 もう柚弥君は僕を深いところまで連れてきてくれない。僕が彼を傷つけたから。……それで構いません。 そんな僕だけど、柚弥君にとって、取るに足らない存在になるしかなかった僕だけど、これだけは思ったんです」  感情が揺れ動くたびに、視線は心のあらぬ方向をさまよっていた。  戻す度に、温度の振りが久しく絶えた、いっそ澄んで、遠くて深い眼にぶつかる。  そして今も、やはり梗介は僕のことを見ていた。 「僕は柚弥君のこと、何も解ってないし、全く近づけてもいません。 だけど、隣になっただけど、それだけでも明るくて綺麗な顔で笑ってくれた柚弥君が、 自分のことをああいう風に卑下して、何かを抱えて苦しんでいるのは、そういう姿を見るのは……」 「僕は……、 僕は嫌です…………」

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