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蛭を見る *

 何故脇腹に、生き物みたいなものが侵入してきて、それが何であるかも判らず、 腰の側面からそこに掛けて、つうっと何本かでなぞられて、すぐ消えたから、怖気だったようにふるえた。  目を向ければ、いつの間にかベルトから抜かれた僅かなシャツの隙間に、梗介の肘下が消えていて、 またその生き物みたいな、彼の、白棒を挟んでいた長くどこか煽情的な指を想い出していた、 それが臍部、胸部の中心へとつ、つぅ、と滑ってきて、胸の前で止まり、 蠢いている、と思ったら、内側から釦の穴を繰って器用に既に数個外されていることが確認でき、瞠目した。 「ちょっ、先輩……っ……!?」  そんなことが、可能なのかという驚きと寛げられている胸許に声を上げたら、 「萎える声出すな。——マグロでいろって言っただろ」  あの胸に沈むような声が、耳にまた近づいてきたと怯んだ瞬間には、甘い粘液を纏った蛭を思わせる舌が捩じ込まれ、 耳の皮膚の薄い側面に、疼くような痛みを伴われ、荒く噛まれた。 「ひぁっ……!」  可笑しな声が出て、羞恥に顔が歪んだが、そんなものまるで気に留めなかったらしい梗介は、 あっさり耳から顔を既に離し、僕のシャツの奥、捻り上げられた腕を順にちらと見て、独り言のように呟いた。 「……文化部の身体じゃねえな。上半身、肩から肘に掛けてが思ったより厚い。ちょっとやそっとで付いた締まりじゃねえ。…………球技か」 「……」  その肩から手頸に掛けてを、がっちり押さえ込まれて、まるで身動きが取れない状態であるのに、 厭味かと、柄にもなく荒んだ表情を浮かべていたらしい。  どういう嗜好か、その方が気に()ったらしい梗介は、その冷たい整いで冴えた唇の端を、愉快そうに吊っていた。 「……これでも、無理矢理犯し(やっ)た経験はあまりねえんだよ。 どうする。……やめるか? 泣きべその坊ちゃんを手篭めにする趣味は、はなから持ち合わせてないんでね」  やめる、という言葉に彼の貌を確認しようとした。  それなのに、僕が見たものは、 どちらかというと薄い、だけど艶のある肉感と色を兼ね備えている唇が、その中の媚態を明かすようにひらかれて、 あの、(ひる)だと思っていた、紅い、思ったより長くて、先端に向かって尖った感触の軟らかそうな、そこの形まで、——正直美しかった、 舌を、何かを舐めあげるようにして、初めて見せるその姿態を、僕にまざまざと晒しあげて、僕の惑っているを、引きずり出そうとしていた。  この人の、この表情。こんな表情(かお)もしてしまうのかと、 これを見せられたら、誰だって好きに扱って欲しいと膝からくずおれるのではないかと、 酩酊をおこしそうなそれを目の当たりにして、飲み込む唾のせいじゃなく、 『答え』もはなから浮かばず、ただ痺れるように息を呑んでいる。 「続行か? …………その(つら)は。 耳か、頸か。……が、お気に召したようだからな。 これ使って(いち)から世話してやらねえと、駄目か? 坊ちゃんは。……この俺が。 ……一番感じる場処は、悦ばせてやれるかは、ちょっとまだ判らねえからな。 …………探すか? 一緒に」 「…………やめて下さい……っ」 「そうかよ」  かろうじて、その答えを絞り出していた。  拒否だけじゃない。を識ってしまうことは、本当に、 こわかったからだ。

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