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第8話

 まるで王妃の部屋のような豪華な家具が並んでいた。そしてとても広い。 「どうなさいました、ユリアさま?」 「⋯⋯あまりにも広いので驚きました」  中央には真っ白なソファがあった。とても大きくて十人は一緒に座れそうなほどだ。何十個もクッションがきれいに置いてある。  窓にはゴブラン織りとレースの二重のカーテンが揺れている。隅には瀟洒な作りの文机がある。  なによりも驚いたのは壁沿いの巨大な本棚だ。革張りの高価な本が数え切れないほどたくさん並んでいる。 「この本を僕が読んでもいいのですか?」 「もちろんでございます、すべてユリアさまのために旦那さまが用意されました」 「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」  ずっと読みたいと思っていた本だった。お金がなくて買えなかったのだ。滅多に手に入らない高価な魔法書までもあった。  ——こんなに本が読めるなんて。  一冊を手に取って開いてみる。あまりに嬉しくて涙がにじんできて文字が読めない。慌てて袖で涙を拭った。 「こんなに広い部屋をいただいて、僕、とても嬉しいです⋯⋯」 「両隣のお部屋もユリアさま専用でございますよ」 「え? まだ僕の部屋があるのですか?」 「はい、ございます! 右の扉がお着替えのためのお衣装部屋、左の扉は日中にお休みになられるための御休憩のお部屋です。三つのお部屋をご用意いたしました」 「⋯⋯そんなにたくさんの部屋、僕には必要ありません」 「いえいえ、必要でございますよ! それでは午後のお昼寝の前に、お着替えをなさいますか?」  そう聞かれてハッとした。  ——僕はこの豪華なお屋敷になんて似合わない格好をしているんだろう⋯⋯。  擦り切れたオメガ襟に地味なフロックコート姿なのだ。自分が質素な服装をしているということをすっかり忘れていたのだ。ここではだれもユリアの服装を笑ったりしないからだ。 「さあ、ユリアさま、こちらへどうぞ!」  うながされて入った衣装室で、ユリアはさらに驚いた。  数えきれないほどの服が整然と並んでいる。フロックコートだけでも、純白からクリーム色、薄い緑に濃い緑、水色、それに濃い青と、何十種類もあった。  棚にはオメガ襟がずらりと並んでいる。豪華な襟ばかりで、ダイヤやルビー、エメラルドなどの宝石が縫いつけてある。たっぷりのフリルつきの襟もあるし、羽のようなオーガンジーの襟までもある。  ズボンも数えきれないほど揃っていた。  セバスチャンがウキウキと楽しそうに淡い緑色のフロックコートを手に取った。 「こちらなどはいかがでしょうか? きっとお似合いになると思いますよ」 「は⋯⋯はい、それでお願いします⋯⋯」  こんなにたくさんの服の中から選ぶなんてとても自分ではできそうもなかった。だからすべてをセバスチャンに任せることにした。 「では、オメガ襟はこちらのオーガンジーではいかがでしょうか? そうすると、ズボンはこちらの白いものがピッタリでございますねえ⋯⋯。おお! なんと! とてもよくお似合いでございますよ、ユリアさま! さあ、鏡をご覧になってください!」  ユリアは鏡の前に立った。  ——これが、僕?

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