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花ちゃん先生と牛乳〔後編〕

おたおたと身動きが取れない花ちゃん先生に自らのハンカチを差し出そうとしたとき、かわいい舌が、唇の端にかかった牛乳をペロッと舐めた。 「……!」 即座にハンカチを引っ込め、(引っ込め!)その顔を凝視する。 花ちゃん先生は困り顔で、袖口から牛乳が入り込んで濡れてしまったらしい手の甲と指先もぺろぺろと舐めた。 そこではたと目が合ったその唇の端には、まだご本人が気づいてないらしい白濁とした雫が、たらりと垂れ…… エッッッッロイ……!! その顔!!秒で記憶の海馬に刻み込めッ!! 脳内再生だけで三日は生きられる自信がある。 「っ、けしからんっ!」 「えっあっ……? ご、ごめんなさいっ」 ハッ、思わず心の声が出てしまった、これでは俺が叱りつけたみたいではないか。 花ちゃん先生は泣きそうな顔でテーブルの引き出しを開け、奥からポケットティッシュを見つけて拭き始めた。 「そっ、そうですよね、こんな子供みたいに舐めたりして……すみません……」 いや違うぅぅう! 違うんです先生それでよかったのぉぉお! ああっ、そんな怯えたような目でこっち見て! ホラっ、また怖がらせちゃった! 俺のバカ俺のバカー! 気を落ち着けるためにハァーッと息を吐いた。 すると花ちゃん先生はますます怯えて下を向く。 アッレー!? あっ、もしかして今のは俺が呆れてため息ついたっぽく見えた感じ⁉︎ ぃゃ違うのにぃぃい! 何とか誤解を解かなければ、えーと、えーっと…… 「あのはなちゃ……乙花先生」 「あ、はいっ!」 「その、飯食う時くらいは……」 飯食う時くらいは、白衣脱いだ方がいいんじゃないですか? いやいやいやダメだ! そんな提案したらもう萌え袖を拝めなくなるだろうがッ!! よく考えて慎重に言葉を選べ! 「つ……次買う時は、パックではなく瓶タイプの牛乳にしたら、いかがですか」 絶対に上手く牛乳キャップを開けられなくて、さらに盛大にぶちまけてくれるに違いない。 「あっ、そっかぁ! それいいですね、今度そうしてみますっ」 一瞬でぱああっと笑顔になる。眩しいいぃい!メガネ割れるぅぅう!! まずい、これ以上見ていると俺の俺がどうにかなりそうだ。学校内でそれはすこぶるまずい。 俺は食いかけの弁当をササッと片付けてから、ややズレたメガネを中指で押し上げ、さっき引っ込めたハンカチを手に持った。 気持ちを落ち着けるために息を吸う。 「ほら……まだついてますよ?」 花ちゃん先生の唇の端に垂れた牛乳をハンカチでぬぐってやってから、スッと席を立った。 「っ……」 その一瞬、花ちゃん先生が赤い顔をしてうつむいたような気がしたが、次のクラスは三階の端だ。プリントのチェックもあるから、急いで向かった。 「……ズルい……」 背後で小さな声が聞こえた気がしたが、俺は深く考えることなく足を速めた。 第一話おわり⁎⁺˳✧༚

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