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第2話 悪夢の七日間

 ふたりの関係は冷め切っているのに、オメガの身体だけはアルファを求めてどんどん熱くなる。 「リオルさまっ」 「リオルさまっ、大丈夫ですかっ?」  しゃがみ込んだリオルを見て、すぐさまふたりの侍女が駆け寄ってきた。  シグルドと結婚して、この屋敷に住むようになったときにシグルドが連れてきた侍女だ。  リオルと同じ年である二十歳のオメガの女の子、マーガレットと、剣術が得意なベータのお姉さんアリシアだ。このふたりはよく気がつくし、いつもリオルをいたわってくれる。 「お身体がこんなに熱くなって……すぐに寝室のベッドに参りましょう」  アリシアが肩を貸してくれる。アリシアを頼ってリオルはよろよろと立ち上がった。 「マーガレット! 寝室のベッドにシグルドさまのお洋服を集めておいて」 「わかったわ、アリシアっ」  マーガレットは寝室に先回りをして準備をしてくれるようだ。 「リオルさま、すごいフェロモン……アルファのシグルドさまとお話なさったせいかしら。早く寝室にまいりましょう」  アリシアに寝室に連れられたころには自分でもわかるくらいにかなりのフェロモンが出てしまっていて、リオルは倒れ込むようにして夫夫の寝室のベッドにようやく辿り着いた。 「はぁっ……はぁっ……」  ベッドに散りばめられたシグルドの服たちはとても魅惑的な匂いがする。  本当だったらこれで綺麗な愛の巣を作りたいが、リオルの身体はすでにフラフラだ。 「リオルさま、なにかあればいつでも私たちを呼びつけてください。ここにベルを置いておきます。お食事は朝と晩、お持ちいたしますね」  枕元にアリシアがベルを置き、やがて寝室の扉が閉められた。  ヒートのときのブザマな姿を見られないで済むのは本当に助かる。これからリオルはヒートが収まるまでここで自慰を繰り返し、痴態をさらけ出し身悶える。そんな恥ずかしい姿は誰にも見られたくない。 「シグルドっ……」  リオルはシグルドの服の山に身を埋めるようにして服を抱き締める。  この匂いだ。これを求めていた。アルファのシグルドのフェロモンの匂い。この甘美な匂いを感じると身体がスーッと楽になっていく。  今のリオルにとって、これこそが唯一の支えだ。  シグルドには申し訳ないと思うが、この服がないと耐えられそうにない。せっかくの質のいい服たちをぐちゃぐちゃにしてしまうことにも罪悪感を感じるが、どうしてもこれだけは許してほしい。 「はぁっ……はぁっ……」  熱くなった身体を収めるために、リオルは股のあいだに手を伸ばす。  そこを触らずにはいられない。 「あっ、あっ、シグルド、シグルド……っ!」  頭にシグルドのことを思い浮かべる。シグルドに抱かれたときのことを思い出して、今、目の前にシグルドがいて、自分はシグルドに抱かれているのだと妄想をかき立てる。  シグルドは今までにたった一度だけ、リオルを抱いてくれたことがある。そのときは身体がとろけそうなくらいによかった。  あのいつも冷たいシグルドが、ベッドの中だけは、まるで別人のように豊潤な愛を囁き、リオルを熱っぽく求めてくれたのだ——。

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