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第5話 愛されてるとは思えない
地獄の七日間を終え、すっかり痩せて体力を奪われたリオルだが、なんとか寝室から出られるようにまで生活を取り戻した。
今は寝室ではなく食堂で食事をとれるようになり、久しぶりに食堂の椅子に座って朝食を食べている。
アルファと交わりさえすれば、二、三日で日常を取り戻せるらしいのに、リオルの場合は欲をまともに発散できないのでいつも七日間苦しむことになる。
今回のヒートもシグルドはリオルを抱いてくれなかった。ということは、これから三ヶ月間、実家からの「子どもはまだか」攻撃に耐え忍ばなければならない。やはり結納金だけではこの先の財政が不安なのだろう。
そのことを思うと思わず溜め息がついて出る。リオルだってなんとかしたいと思っているのに、こればかりはシグルドの協力がないとどうしようもないことだ。
「シグルドさまはお忙しい御方ですから。今回も遠征に出なければならないという仕方のないご用事だと聞きました。次こそシグルドさまもリオルさまのことを想ってそばにいてくださると思います」
リオルのティーカップに温かい紅茶を注ぎながら、マーガレットはリオルの孤独な心を癒やすような優しい言葉をかけてくれる。
マーガレットはリオルとシグルドのふたりのギクシャクした様子を見ているだろうに、いつもリオルを励ますようなことを言う。
「シグルドは僕のことなんて気にもしてないよ」
つい弱音を吐いてしまう。シグルドが本当に想ってくれているのなら、ヒートのときにリオルのそばにいてくれるのではないだろうか。いくら大事な仕事だったと言われてもどこか納得がいかない自分がいる。
「そんなことありませんよ。シグルドさまはリオルさまのことを大切に想っていらっしゃいます。シグルドさまを信じてあげてください。私たちがこの屋敷に連れて来られたのも、シグルドさまがそばにいられないときリオルさまが寂しい思いをしないためなんですから」
「うん……」
マーガレットの言葉は優しいが、リオルには、「自分が面倒みたくないからリオルの世話を侍女に押しつけたい」とシグルドが考えているように思えてならない。
マーガレットに慰められ、少しずつ元気を取り戻し、何気ない会話に花を咲かせていたときだった。
馬の蹄の音が聞こえてきた。その音を聞いて、アリシアとマーガレットが急いで玄関へと向かっていく。
シグルドが帰ってきたのだろう。ふたりは家主であるシグルドを迎えに出たのだ。
本当なら、リオルも出迎えないといけないのかもしれないが、急いで駆け寄る体力もないし、シグルドの顔を見たら泣けてしまいそうで出迎えには行かなかった。
「おかえりなさいませ、シグルドさま」
ふたりの侍女の声がここまで聞こえてくる。食堂と玄関はすぐ隣の部屋で、ドアも開けっぱなしなのだから会話は筒抜けだ。
「予定よりだいぶお早いお帰りですね」
「ああ。できるだけ急いで帰ってきた。リオルは? どこにいる? なぜ出迎えに来ない? 具合が悪いのか?」
シグルドが、出迎えに来なかったリオルのことを気にしている様子だ。ヒートのときはおいてけぼりにするくせに、リオルの存在は覚えているらしい。
「リオルさまは食堂にいらっしゃいます」
「そうか」
すぐに足音が近づいてくる。
シグルドがこっちに向かって来るようだ。出迎えに行かなかったことを咎められるかもしれない。
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