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第6話 欲しいのは宝石じゃない

「リオル!」  息を切らして食堂にやってきたシグルドは、リオルを見つけて駆け寄ってきた。 「ごめんなさい、シグルド。迎えに出られなくて……あの、体調があまり……」 「別に構わない。リオルがとうとう俺を嫌いになったのかと不安になっただけだ。そうでなければよいのだ」  これだからシグルドはずるい。ヒートのときは邪険にするくせに、普段はこのようにリオルに優しく接してくる。  この理由がリオルにはまったくわからない。侍女たちが見ている手前、仲のいいふりをしなければ、というつもりなのだろうか。 「息災か? 食事を摂れる元気はあるようで安心したぞ」  シグルドに言われて悔し涙が溢れそうになり、グッと奥歯を噛み締めた。  どこまでも続く暗闇のトンネルのような苦しい七日間を過ごしてきて、今日になってやっとまともに食事を食べられるようになったところだ。この場面だけを見たシグルドは、ヒートなんて大したことないものだと勘違いするんじゃないだろうか。 「今日になってやっと起き上がれるようになったんだよ。僕はそれまで必死だったのに」  膨れっ(つら)でシグルドを見上げると、「すまなかった」とシグルドにそっと頭を撫でられた。  シグルドの手の温かさを感じて悲しくなる。どうしてシグルドの心は冷たく凍りついているのに、触れられると温かくて心地がいいと思ってしまうのだろう。  単純なリオルはちょっと頭を撫でられて、謝られただけでヒートの妻をおいてけぼりにしたシグルドの仕打ちを許してしまいそうになる。 「リオル。お詫びというわけでもないのだが、お前に土産を買って来たんだ。ツァーデンは碧色のサファイアの産地で、リオルに似合いそうだと思うブローチが売っていたんだ。どうか受け取ってもらえないか?」  シグルドが差し出してきたのは、ビロードの布に包まれた大きな碧色のサファイアだった。この輝きと大きさなら、かなり高価なものだろうと世間知らずのリオルにも容易に想像できる。 「こんな高価なもの、僕には似合いません」  シグルドはこのように、まめにリオルに贈り物をしてくれる。だがリオルが欲しいものは高価な宝石でも煌びやかな洋服でもない。夫であるシグルドからの愛情だ。 「そんなことはない。俺がリオルに似合うと思ったから買ったんだ。今度、父上の誕生日を祝うパーティーがある。そのときにでもつけてくれ」  ああ、なるほど、とリオルは思った。  シグルドは、自分の家族の前で良い夫だとアピールしたいのだろう。  シグルドの実家、フォーデン家も今か今かとリオルの懐妊を心待ちにしている。それなのにまさか不仲な夫夫だと知られるわけにはいかない。だからシグルドからの贈り物を身につけてパーティーに参加し、仲の良さを示してほしいのだろう。

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