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第7話 上辺だけの「愛してる」

「わかりました。パーティーのときにこれを身につけて、シグルドからもらったものだと言うようにします」 「リオル。どうしてそんなに他人行儀な言い方をする?」  シグルドに指摘されてハッとする。親しげに話しかけないとシグルドはいつも怖い顔になるのだった。 「ごめんなさい、シグルド。パーティーのときにはきちんと僕の役目を果たすから、あんまり怒らないで……」  シグルドに冷たい視線をぶつけられるたびに背筋が凍るようだ。いつかシグルドに捨てられはしないかとリオルはいつもビクビクしている。 「怒ってなどいないよ。ただもう少しだけリオルと仲良くなりたいと思ってるだけだ。そうだ明日は任務はないから、ふたりで出かけよう。俺の友人の店にでも食事に行こうか」 「はぁ……」  ヒート明けのオメガを外出に誘うとは。さっき体調が悪いと言ったばかりなのに、もうシグルドは忘れてしまったようだ。  家の中で仲良くしていても仕方がない。外に出て、友人にわざとらしく仲の良さを見せつけたいのだろう。 「リオル。愛しているよ」  シグルドはリオルの身体をそっと抱き締めようと手を伸ばしてきた。リオルは反射的にその手を振り払う。  シグルドに抱き締められたくなかった。  今、抱き締められたら、きっとシグルドを許してしまう。シグルドのせいで七日間も苦しい思いをしたのに、上辺だけの「愛してる」と、たった一度の抱擁で許してしまうなんて簡単すぎると思った。 「リオル……」  シグルドからの刺すような視線を感じるが、リオルはとてもじゃないが顔を上げられない。  きっとシグルドは今、鬼のように怖い形相を浮かべているだろうから。 「たっ、体調がすぐれないので、部屋で休みます」  リオルはシグルドの顔も見ず、そのすぐ傍を通り、逃げるように立ち去った。 「うっ……うっ……」  泣きべそをかきながら、ぐしゃぐしゃになったシグルドの洋服たちを急いで片付ける。洋服をこんなにしたことがバレたら、シグルドにまた怒られるに違いない。  服を片付けているうちに、シグルドのワードローブの中に懐かしい服を見つけた。それは、シグルドとリオルが通っていた王立学校の制服だった。  なぜシグルドは結婚後、制服をこの家までわざわざ持ってきたのだろう。もう卒業してしまったのだから、着ることのない服だ。  その服を見て、リオルの脳内に昔のことが思い出される。  あんなに優しかったシグルドはここにはいない。随分と昔のことだから、シグルドはリオルとの思い出などすっかり忘れてしまったことだろう。

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