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第11話 義父の誕生パーティー
今日はシグルドの父親の誕生日を祝うパーティーがあり、ふたりでシグルドの実家に行くことになった。
シグルドの実家は城と見紛 うほどの立派な屋敷だ。広い庭園に繋がるように大きな広間と食堂があり、百名ほどの人を招待しても余裕で受け入れることができるほどの豪壮な屋敷だ。
二階には、家族のためのプライベートな居間や書斎の他に、ずらりと家族らの個室やゲストのための客室が並ぶ。結婚をして実家を出たシグルドの部屋もいまだに残されたままになっているらしい。さすがは豪商の屋敷、部屋数に相当余裕があるようだ。
リオルはシグルドの仕立ててくれた華美な服を着て、シグルドから贈られた碧いサファイアを身につけている。
シグルドにこれを着ろと言われたわけではないが、きっとシグルドは父親に良い夫アピールをしたいだろうと思い、このような装いにした。
シグルドの父、バランはふたりの姿を見るなり、人と話をしていたのを中断してまでこちらに向かってきた。
「リオル。よく来てくれた。久しぶりだな」
バランは実の息子のシグルドには目もくれず、一直線にリオルに握手を求め肩をぽんと叩く。
バランはリオルのことを良家から嫁いで来てくれた、大切な嫁だと思ってくれているようだ。
「はい。バラン様。あまり顔を出せずに申し訳ありません」
「いいんだよ。リオルにはシグルドと結婚してくれただけで感謝している」
「そんな……もったいないお言葉です。我が父と母も、シグルドさんが僕と結婚してくれたことを大いに喜んでおります」
「そうか、そうか」
バランは笑顔だが、リオルの心は沈んでいく。
どうしても「僕もシグルドと結婚できて嬉しい」とは言い出せなかった。まぁ、どうせ政略結婚なのだからそれでも構わないだろう。
与えられた ″役割″さえ果たせれば。
「シグルドはどうだ? 気の利かない息子だから何かあれば私に言いなさい。言って聞かせてやるからな」
バランにそう促されても、まさか「ありがとうございます。じゃあ、ヒートのときにちゃんと僕と性交してくれるように言ってほしいです!」とは口が裂けても言えない。
「お気遣いありがとうございます。でもシグルドさんはとてもいい夫です。この服を仕立ててくださったのもシグルドさんですし、先日はブローチを贈り物としてくださいました」
これだけはバランに伝えておかねばならない。シグルドに愛されているアピールをしなければ、パーティーのあとで「不仲な夫夫だとバレないようにしろ!」とシグルドに咎められることだろう。
「あのシグルドが贈り物か! それはいい。シグルドはかなりリオルに惚れているのだな。これは孫の顔を見るのも、そろそろかな」
バランは上機嫌になり、シグルドに意味深な笑みを送る。
「父上、そのような話をするのは控えてください。夫夫のあいだのことですので」
シグルドは咄嗟にバランを制する。シグルドはいつもそうだ。下世話な話だからというのもあるのだろうが、どうもふたりの子どもについての話は避けたい様子だ。
「すまんすまん、そうだな。だがな、孫の誕生を心待ちにしているよ」
バランはシグルドの態度など気にもかけない様子で「では夫夫でゆっくりしていってくれ」と言い残し、他の来客の対応へ向かって行った。
「リオル、ありがとう。父上の前であのように振る舞ってくれて」
隣にいたシグルドがそっと囁くようにリオルに声をかけてきた。リオルが仲のいいふりをしたことを褒めてくれたのだろう。
「ううん、シグルドは本当にいい夫だと思うから」
性行為がないことさえ除けば、シグルドは優しいしリオルを気遣ってくれる良き夫だ。かっこいいし、優秀で、はたから見れば非の打ち所がない人だ。
「は? リオルは人の気も知らずに軽い口だな。そんなことを言われたら期待するからやめてくれ」
「えっ?」
どういう意味かとシグルドを振り返ったときには、シグルドはふいっとそっぽを向いてしまった。
リオルの返答が気に入らなかったようだ。シグルドはリオルに興味をなくしたように旧友の姿を見つけてさっさとそっちへ行ってしまった。
シグルドは久しぶりの友人との再会に笑顔を見せて、馴れ馴れしくお互いの肩を叩き合っている。
とてもシグルドとシグルドの友人のあいだに割り込むことなどできない。リオルはひとりきりになった。
「はぁ……」
シグルドの父親の誕生日パーティーにリオルの知り合いなどいない。
リオルはせめて邪魔にならないように端っこでひっそりやり過ごそうと思って隅に移動した。
広いパーティー会場の隅から遠くにいるシグルドを眺めてみる。
遠くから見てもシグルドの容姿の良さは際立っている。さすが皆の憧れの上位アルファだ。
リオル以外の人といるときのシグルドは生き生きとして見える。家にいるときのつまらなそうなシグルドとは大違いだ。
(シグルドは僕といても、つまんないんだろうなぁ……)
リオルは会話が上手ではない。うまく会話を繋げられないし、切り返しも下手くそだ。もともと他人と話すことは苦手なのに、さらに相手が気まずいシグルドとなればもっとひどい。
ブサイクなのに、気も利かなければ会話も下手。これではシグルドに愛されないのも当然だろう。
「こんにちは。おひとりですか?」
リオルがひとり反省会をして、落ち込んでいるときに、にこやかにリオルに声をかけてきたのは、見知らぬ男だった。
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