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第12話 アルファの男
男は自分の名前をセナと名乗った。セナはかなり体格がいい。よく見ると頬にうっすら剣で切られたような痕が残っているし、剣で戦う者なのかもしれない。
「あの、騎士さん……ですか?」
「騎士ィ? 俺がぁ?」
セナは豪快に笑った。盛大に笑われても、何を間違ったのかリオルにはまったくわからない。
「俺は傭兵。ただの雇われ戦士だよ。もしかして知らないの? 生まれが良さそうだもんな、お前」
セナは値踏みをするような目でリオルの全身を見た。たしかに今日のリオルはシグルドから与えられた高価なものばかり身につけている。
「名前は? 聞いてもいい?」
馴れ馴れしいなと思ったが、パーティーは始まったばかりなのでリオルに逃げ場はない。仕方なく「リオルです」と家名は伏せ、名前だけ名乗ることにした。
「リオルさん。俺、新しい職場を探してるんだけど、傭兵をひとり雇いませんか?」
「雇う……?」
「そうです。今、金がなくて困ってて。俺、こう見えてもアルファの端くれなんで、結構役に立ちますよ」
アルファと言われてリオルはスンと鼻でセナのフェロモンを感じ取ろうとする。シグルドみたいに明らかにアルファだとわかる感じはないが、言われればアルファかなという感じだ。
シグルドの家にはかなりの財産があるのに、それを守るべき警備兵はいない。アリシアは剣の腕は立つが、あとはオメガのリオルとマーガレットしかいない。万が一盗賊に襲われたらまともに戦えるのはマーガレットだけ。これでは警備が手薄かもしれない。そのことをシグルドに話してみてもいいのかもしれないと思った。
「最初の三日はお試しで、報酬なしでいいです。それで気に入ったら夜警だけでもいいから雇ってもらえると助かるんだけどなぁ」
セナも生活に困っているのなら、夜だけでも警護をお願いしても悪くないと思った。
「か、考えてみます……」
「本当かっ?」
セナは急に目を輝かせてリオルの両肩をゆすった。この場合、リオルは雇い主、セナは雇われの立場になるのになんて馴れ馴れしいのだろう。
「主人に相談しないと僕だけでは決められないので」
「頼む! 頼むよ、何とかご主人を説得してくれ!」
「いやっ、僕にはそんな説得するほどの力はなくて——」
「そんなことないだろ? そうだ、俺たちでご主人を説得するための策を今から練ろう。どうですか?」
「えっ? そんな……策なんてすぐに見破られます、すごく優秀な人だから」
「大丈夫、大丈夫。ここにいても仕方ないんでしょ? パーティー抜け出して俺とふたりきりで作戦会議しましょう」
セナはリオルの腕を引いた。あっと思ったが、セナは力強くて簡単に引っ張られてしまう。
「だ、だめっ……」
どんなときでも、貞淑な妻でいなければならない。パーティーの途中で男と抜け出しているさまを誰かに見られたらシグルドに迷惑がかかってしまう。
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