5 / 47

第5話

 今日は十歳を迎えた子どもが洗礼を受ける特別な日。  洗礼式を祝うように雲一つない青空で、日差しはぽかぽかと温かい。洗礼は教会に子どもを集めて一斉に行われる。   貴族の子は正教会で受けるが、それでもここだけで二百人はいるだろう。  事の重大さをわかっていないのか騒ぐ子もいるが、見知った顔を見つけるとそこで固まったりどこか異様な空気を察している子も多い。  ルイスは列に並び順番が来るのを待っていた。   竜の石像が祀られた祭壇には年老いた神父や数人のシスターが立っている。祭壇に向かって列は作られ、神父に近づくにつれ子どもたちは言葉少なくなった。  先に洗礼を済ませた子たちがどこかすっきりした表情をして、外に待っている家族の元へ走っていく。  それを横目で見ながらこれから洗礼を受ける誰も彼もが自分がどの属性になるのか期待と不安が入り混じった表情を浮かべている。    洗礼は水晶に手を翳し、赤く光れば 火、青く光れば水、黄色く光れば土、緑に光れば風の力を授かる。  親の属性は影響されないが、同じになることが多い。  ルイスの両親は土と風の魔力なので、そのどちらかがいいなとぼんやり考えていた。  「では次の方」   神父に呼ばれて水晶の前に立つ。手を翳すと水晶が淡く光り、どの属性を授かるのだろうと緊張した面持ちで待っていると次第に光が小さくなり、消えてしまった。  シスターたちの悲鳴があがる。  白い髭をたくわえた神父は細くなった目を 大きく広げた。  「もう一度やってくれるかい?」  「はい」   再び手を翳すが今度はなんの反応も示さなかった。  ざわめきが大きくなる。  「忌み子じゃ!」  神父の怒声に驚いて尻もちをついてしまった。なにが起こったのかよく理 解ができない。   神父は爪で頬を搔きむしり、そのまま指を下に滑らせた。  (忌み子ってなんだ?)  言葉の意味はわからないが、それがとても不吉な響きを持っている。でもどうして自分と結びつくのだろうか。   神父たちがまるで汚いものを見るように口を覆い、両目は眇められている。  初めてレナードと会ったときと同じ表情だ。  今日まで平穏に暮らしてきた。遊んだり勉強したり本を読んだり、ごく普通のどこにでもいる街の子のルイスがどうしてそんな目で見られなければならない?  周りの子たちはルイスを取り囲むように集まってきて、好奇心を抑えられ ないように息を弾ませている。  「天変地異が起こる! 災いが起きる! 干ばつじゃ! 戦争じゃ!!」   神父が不吉な言葉を並べてくるのでひっと小さな悲鳴がそこここであがっ た。泣いている子もいる。  好奇の目が憎しみに変わる瞬間を初めて見た。  神父に腕を掴まれて教会の外に投げ捨てられ、年のわりに身体が小さいルイスは干草を放るように簡単に地面に 転がった。  「忌み子じゃ! 今年は忌み子がいるぞ!!」   教会の外で子どもたちを待っていた親たちが悲鳴をあげ、ルイスに侮蔑の視線を向けた。  「コイツが忌み子じゃ。制裁を」   神父の言葉に近くに立っていた年老いた夫婦から石を投げつけられる。  それが額に当たり血が流れた。  「追い出せ!この街から追い出すんだ!」

ともだちにシェアしよう!