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第14話

 翌日から座学や魔法の実技の授業が始まった。学校に通ったことがなかったので、学友たちと机を並べて勉強をする環境が新鮮に映る。  座学は事前にアドルフと勉強してきたのでなんとかなったが、実技が不安だ。 魔法具を持ち込むことは禁止されているのでバレるかもしれないとヒヤヒヤしたが、なんとか気づかれずに午前の授業を終えることができた。   昼食はどの生徒も学食で取るが、貴族とは棟が違うので会うどころか見かけることもない。  本当に同じ学園に通っているのかわからなくなってくる。  アドルフと窓側のカウンター席に座り、日替わりランチのオムライスを食べながら中庭を挟んだ反対側にある貴族棟を眺めた。  「そういえばジン様の噂知ってる?」  後ろの席の女生徒たちのヒソヒソ話に意識が向く。聞き耳はよくないとわかりつつも、ジンの名前が出ては無視できない。  「どの話?女を取っ替え引っ替えしてるってやつ?」  「なんだやっぱり知ってたか」  「有名だよね。令嬢じゃなくても相手してもらえるって」  「そうそう。私もお眼鏡に叶うかしら」  その言葉に冷水を浴びせられたように全身の体温が下がった。  あのジンが女遊びをしている? にわかに信じられない。  隣に座るアドルフにも聞こえていたらしく、ルイスが視線を向けると肩を竦めた。  この六年間、一度も街へ行けず、街での噂は全部アドルフ頼みだった。  「なんで言ってくれなかったの」  「噂じゃよ。お主の気を煩わせる必要がないと思って黙っておった」   そう言うとアドルフは背中を丸めた。 彼なりにルイスを気遣ってくれていたなら文句は言えない。  ラダヴィア国は近隣国との交流は盛んで交易もしている。  だがそのなかの 一つが他国と戦争をしているとの話だ。   魔法が使えるのは竜の加護があるラダヴィアだけ。戦争に利用しようと企てている国もあるらしい。  だから王族にしかわからない気苦労があり、その鬱憤のはけ口を女性にしてるのだろうか 。  (あまりジンらしくないな)  湖で水遊びをしたり、庭園を駆け回っていた子ども時代しか知らないせいか、女性を口説いているジンが想像がつかない。  でもあれほどの美貌と男らしさを兼ね備えた王子に迫られたら断れる女性はそういないだろう。  一方でルイスは背も伸びず、魔法具がないと魔法が使えない忌み子のままなにも成長しておらず情けなくなった。  「……女だったらよかったのかな」  「なにを言っておる。ルイは可愛いおなごじゃ」  ガラスに映る自分の容姿を見た。長い髪にスカートの制服は確かに女だが、服を脱いだら気づかれる。  (って僕はなにを想像しているんだ)   頭に熱がのぼってきて、邪念を振り払うように左右に振った。  その様子を 見ていたアドルフが乾いた笑い声をあげる。  「まるで嫉妬じゃな」  「嫉妬?」  初めて聞く単語のようにアドルフの言葉を繰り返した。  「なんだお主、自分で気づいてなかったのか」  「別に嫉妬なんてしてない。ちょっと羨ましいなと思っただけで」  「そういうのを嫉妬と言うんじゃろうに」  クツクツと笑い始めたアドルフを無視して食事を再開させる。 この気持ちは嫉妬ではない、たぶん。

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