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第15話

 寮で授業の復習をしているとドアをノックされた。こんな時間に誰だろう。衣服に乱れがないか確認して扉を開けるとクラスメイトの女子二人が立っていた 。  「どうしたの?」  「私たちの部屋、お湯が出なくなっちゃって。ルイちゃんのところは大丈夫?」  「ちょっと確認してみる」  二人には廊下で待っててもらい、慌てて浴室へ行って蛇口を捻ったが水すら出てこない。  どれだけ捻ってもきゅっきゅっと金属音だけが虚しく響く。二人の元に戻り水が出ないことを告 げると困惑した表情を浮かべた。  「魔法道具になにかあったのかな?」  「そうかもしれないね。他の部屋にも訊いてみよう」   部屋を出ると隣のクラスの子がいたので風呂の話をすると、どうやら全部の部屋が同じ状況だと教えてもらえた。   風呂だけでなく、洗面台やトイレに至るすべてが使えないらしい。  「いま寮長が学園に報告しているみたいだよ」  「それは困ったね」  入学してからまだ日も浅いというのになんたる不運だ。  しばらくすると寮長である三年生が戻って来た。  「どうやら水が使えないのは一般寮だけみたい」  「原因はなんですか?」  「まだはっきりしたことはわからないけど、魔法具が壊された可能性があるって」  「そんな……」   生活には魔法具や魔力が不可欠だ。  水を出す水の魔力、料理に使える火の魔力、連絡手段でもある風の魔力、田畑を耕す土の魔力とそれぞれ生きていくうえで大事な役割がある。   魔法具も水を温めたり、トイレの水を流したり、灯りをつけたりと自分が使えない魔力を使えるので生活には欠かせない。   この寮の水周りは魔法具で担っていたのだろう。それになんらかの不具合がでたのかもしれない。  一口に魔法具と言っても大きさや用途によって価値が大きく変動する。  今回は一般寮全般の水回りを使っていたとなるとそれなりに値を張るだろう。  そんな高価ものを壊すなんて一体誰の仕業だろうか。  ざわめきが広がり、寮長はそれを制した。  「それで家が近い人はしばらく通学して欲しいみたい」  「そんな」  小屋まで歩いたら三時間はかかる。とてもじゃないが通える距離ではない。  ほとんどの生徒は文句を言いながらも自室へと引き上げて荷物を取りに戻る。通える距離の生徒が多いらしい。   残されたルイスと残り数名の生徒に寮長は目配せした。  「帰れない人はしばらく学園を使わせてもらえるみたい。荷物をまとめたら会議室に集まって。男子も来るから」  「わかりました」  自室に戻るとどっと疲れた。  まさか 学園生活二日目にして、この生活にピリオドが打たれるなんて。  しかも魔法具が壊された可能性があると聞き、嫌な予感がある。   荷物をまとめて会議室へ行くとアド ルフの姿を見つけ、駆け寄った。  「魔法具のこと訊いた?」  「あぁ、壊された可能性があるらしいの」  「なにかの前兆じゃなきゃいいけど」  「考えすぎじゃよ」  「そう、だよね」  確かにただのルイスの想像だ。単に老朽化した魔法具が壊れただけかもしれない。  寮長の口ぶりからまだはっきりした理由はわかっていないようだし、詮索しても意味がないだろう。   それより今後のことを考えなくては。  「どうする? 小屋から通う?」  「遠いから無理じゃよ」   ということは学園世話になるしかないのか。個別の部屋はないだろうし、男だとバレるのではないかと一気に緊張が高まる。   会議室に続々と生徒が集まってくるなか、人混みを掻き分けながら男が入ってきた。  「すいません、アドルフさんですよね?」  執事服を着たクアンがなぜか会議室に来ている。側付きとはいえ貴族棟から来た人物に周りの注目が集まる。  「誰じゃ?」  「ジン様の身の回りのお世話をしています、クアンです」  丁寧にお辞儀をしたクアンは顔をあげた。  「我に何用か?」  

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