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第18話

 ジンの部屋に来てから一週間が経った。  どうやら一般寮の水の魔法具が老朽化で壊れたらしいということがわかった。 壊されたというわけではなく、事件性もないので安心した。  ただかなり珍しい魔法具で、なかなか入手できずいつ寮に戻れるか検討もつかないらしい。  それならいっそ学園近くの部屋をアドルフと借りてもいいかもしれないと提案をしたらあっさり拒否された。  「せっかく一人を満喫しておるのじゃ。水をささないでおくれ」  「でもこれ以上のジン……様のところに世話になるわけにはいかないし」  「出ていけと言われたわけじゃないのだろう? もう少し厄介になっても大丈夫だろうに」  確かにジンは一度もそんな素振りを見せてこない。  それにルイスは本来は男だが、女として装っているので同じ部屋にいるのも気まずい。 これといったアクションがないのでジンがどう思っているのかわからない。  だから一つの油断がきっかけで気づかれるかもしれないと常に背中を狙われている気分だ。  「部屋に来てもいいと最初に言われたのはアドルフだろ? 今度は僕が学園に泊まるよ」    「そんなこと気にせんでいい。みんなとも打ち解けていて楽しい夜を過ごしておるのじゃ」  「でも」  女性らしい立ち振る舞いを常にしなければならないので神経がすり減っていく。  部屋にいつジンやクアンが来るかわからないので気が休まらない。  ただ思わぬ収穫があった。  数日一緒に過ごしてジンは噂で聞いていたような男ではなかった。  授業が終わればまっすぐ寮に帰って来るし、 貴族のお茶会や社交界に出席している様子もない。もちろん部屋に女性を連れ込んでくることもなかった。  寮では勉強をしたり、剣や魔法の鍛錬をしている。  ルイスが子どものとき一緒に過ごしてきた真面目のままだ。  だから余計に気を抜いてしまいそうになるのだ。  机を並べて勉強したり、一緒に剣の鍛錬もしてみたい。  小さいときに叶えられなかった夢がどんどん膨らんでくる。 でもジンの側にはいつもクアンがいた。ルイスから護るように常にガード されていて、雑談一つもできない。  クアンは口調こそやさしいが、目つきが鋭くて怖い。同じ部屋にいるだけで呼吸一つ気を遣う。  アドルフはそう言ってくれているが気を使っているのかもしれない。  でも頑固なところがあるアドルフの意見を変えさせるのは難しい。というか一度もできたことがない気がする。  学園に泊まるとしてもルイを装わなければならない。みんなと風呂に入ることになったらすぐに気づかれてしまう。  クアンという目の上のたんこぶはあ るが、一応個室だしまだジンの部屋がましかもしれない。   (もう少し頑張ってみるか)  ティーカップを置いて中庭を見るとちょうど貴族の学生たちが中庭に集まっていた。  お互いの校舎の間に中庭があるので、時間が合えば見かけることもある。  銀髪で背の高いジンは遠くでも目立つ。老齢の教師の説明にじっと耳を傾け、どこか緊張した面持ちだ。   貴族たちは剣や杖などの魔法具を手にしていることから、これから魔法の訓練をするらしい。  「貴族の魔法とは見物じゃな」  「そんな言い方しなくても」  「じゃがみんな注目しておる」   テラスでお茶を飲んでいた一般生徒たちの視線が中庭に向けられている。  みんな貴族の魔法力が気になるらしい。魔法は均等に与えられるとはいえ、使う者の能力によって同じ属性でも使いこなせる者とそうでない者に分かれる。  それを値踏みしているのだ。   貴族側も承知の上なのか、強張った表情をしている人が多い。  ここは貴族としての矜持を見せる大事な局面だ。   (頑張って、ジン)  心のなかでエールを送った。   訓練は対人魔法戦闘らしい。一対一で向き合い、相手に攻撃を当てるか負けを認めさせたら勝ちのようだ。   魔法は生活だけでなく、戦争にも使われる。貴族が戦場に赴くことはないが、他国から命を狙われる危険があるため護身用として身につけといて損はない。   魔法陣で囲われたなかに二人ずつ入っていき、模擬戦闘が始まる。  魔法の光がこちらまで届くほど激しい戦闘が繰り広げられていた。  「では次!」  教師の掛け声にジンと小柄な青年が魔法陣のなかに入っていく。遠目でも青年がおどおどして挙動不審なのがわかる。  「これは絶対ジン様の勝ちね」

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