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第19話

 隣に座る女生徒たちはジンに声援を送った。  すると声に反応するようにジンの顔がこちらに向く。親指ほどの大きさほど離れているのにジンと目が合っているような気がする。  「きゃあ! ジン様と目が合ったわ」  「違うわ。私のことを見てたのよ」  「私よ!」   隣の女の子たちを見ていたのかとなぜか胸のなかがモヤモヤする。  「始め!」  教師のかけ声と同時にジンが先に仕掛ける。剣に炎を纏わせ、青年に斬りかかった。だが男は驚くような身のこなしでそれを避け、水の魔力を纏わせたグローブでジンの鳩 尾に一発食らわせた。   「きゃっ! ジン様が!!」   誰も予想していない男の攻撃に悲鳴があがる。教師が慌てて魔法陣のなかに入り、模擬戦闘は終わりだと告げているのに男は攻撃の手を休めない。  それどころか教師の顎を殴り、失神させていた。  「まずいの」   試合を見てたアドルフが険しい表情になる。確かにこれはただの模擬戦闘の域を超えている。  膝をついたジンに再度男が襲いかかる。ジンは剣で塞ぐが、水の力に火が消えてしまった。 かなりダメージを受けているようだ。  「ジン……!」  ルイスは脇目も振らずに走り出した。このままだとジンが死んでしまう。   境界を跨いで魔力を吸われて倒れたジンの顔が浮かぶ。もうあんな苦しい目に遭わせたくない。   魔法陣の前に着くと貴族たちは怯えて誰も助けようともしていない。みんな恐怖で動けないようだ。  ルイスは迷わず魔法陣のなかに入るといままさに男がジンに拳を振り上げていた。  「危ない!」  風の魔法でジンの前に壁をつくると男の拳が弾かれた。何度も殴っても壊れないことに気がついた男はこちらに視線を向ける。  本当におどおどして不安気だった男だろうかと疑いたくなるほど見た目が違う。  つり上がった両目は明確にジンを殺す意思がある。   (このままだとマズイ)  男がこちらに走ってきた。先にルイスを始末しようと踏んだらしい。  両手を前にかざして風の力を溜めて球体にし、男に向かって投げた 男は球を殴ったが、風の魔力に吸い 込まれ腕が抜けなくり、抜こうとした 反対側の手も吸い込まれ、男の両手を拘束することに成功した。  それでもなお暴れる男の両足も風の球体に飲み込ませる。  しばらく暴れていたが抜け出せないとわかったのか大 人しくなった。  男が抵抗しないのを確認してからジンの元へ駆け寄る。  「ジン!」  膝をついたジンは苦悶の表情を浮かべ、脇腹を押さえていた。シャツに血が滲みどんどん広がっていく。  「酷い怪我……診せて」  「お、おい!」   ジンが言うより早くシャツを捲った。   火傷をしたような赤い水ぶくれと打撲、 そして擦り傷があった。どうやら水に熱をもたせ、グローブに刃物を仕込んでいたらしい。  殺す意思があったのは明白だ。  「いまはこれしかないから応急措置 ね。あとで保健室で診てもらって」  ルイスはポケットからハンカチで何重にも包んだドクダミ草を患部に貼り、スカートの裾を切って巻きつける。  「酷い匂いだ」  「我慢して。火傷は早く治療しないと跡が残るんだ」   確かにドクダミ草は独特な匂いがして、嫌われているが抗菌作用もあるので性能が高い。  「どなたか水の魔力の方はいません か!」  魔法陣の外に声をかけると一人の男が名乗り出てくれた。  「水で小さい球体を作れますか?」  「やってみよう」   男がボールほど小さな水の球体をつくり、それに触れて風の魔力を込める。  するとみるみる水の球体が凍っていき、 氷の塊ができた。 氷をハンカチで包み、お腹に当てる とジンは苦しそうな顔を歪めた。  痛いだろうか火傷は冷やすのが一番いい。  次に倒れている教師の元へ駆け寄ったが幸い怪我はない。  ほっとしていると魔法陣のなかに別の教師が入ってきた。  「なにをやっているんだ!」  その怒声はルイスに向けられ、反射的に身体が強張る。  「まさか貴様がやったのか!」  「いえ、ぼ……私は」  忌み子と蔑まれ石を投げられた痛みが蘇ってきて、呼吸ができない。  (怖い、誰か助けて)  「彼女は助けてくれたんです」  ジンの声にルイスを詰めかけていた教師が振り返る。  「ルイが助けてくれました」  もう一度繰り返すと教師は口を閉じ、罰が悪そうに白い髭を撫でつけた。

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